2019年11月29日

第33回「SCM 究極のメモリー目指して」

ボトルネック
近年、IoT(モノのインターネット)によるビッグデータ(大量データ)処理やディープラーニング(深層学習)をはじめとする人工知能(AI)の普及により、膨大な量のデータを扱う必要が生じている。それらの処理性能向上には、大量データをコンピューターの記憶装置から処理装置に高速に転送する必要がある。

しかし現在は、転送する際の速度がネックとなり、高速化を妨げている。これは「フォン・ノイマン・ボトルネック」と呼ばれており、このボトルネックを解消することが喫緊の課題である。

解決策の一つが、現在国内外で研究開発が活発に行われている「高性能なストレージクラスメモリー(SCM)」である。SCMは、以前からあるメモリーシステムの階層構造(図)の中で、主記憶として使われるDRAMと、外部記憶装置(ストレージ)の間に位置する。高速なDRAMと低速なストレージでは4-6ケタ程度の遅延時間の差があり、その性能ギャップを埋めるメモリーである。

SCMに求められる性能は、DRAM程度の高速性を有し、ランダムアクセスが可能、NANDフラッシュメモリーよりも高速かつ低コストで、十分に大容量なものが望まれる。さらに低消費電力化の実現のため、電源供給なしでデータを保持できる不揮発性メモリーでなければならない。

性能・コスト凌駕
SCMの候補としては、従来のReRAM(抵抗変化メモリー)、PRAM(相変化メモリー)や、MRAM(磁気抵抗メモリー)、また今後の展開が期待されるカーボンナノチューブメモリーなどがある。だがいずれも「帯に短したすきに長し」で、ボトルネックの解消には程遠い状況である。

現在のSCM開発の方向性としては、既存の不揮発性メモリーの微細化や3次元化とともに、多値化による大容量化でのコスト削減と、既存のコストでの高性能化がある。新しい材料や新規な素子構造からなる、既存のメモリーを性能面・コスト面で凌駕する新規SCMの出現が待たれる。

高性能なSCMにより、高速でリアルタイム性に優れたビッグデータのサービスが実現するとともに、将来の脳型コンピューターへの応用にも夢が広がる。今後のコンピューティングを支えるクラウド側からエッジ側までの広範な分野への応用が期待される究極のメモリー、それがSCMである。

※本記事は 日刊工業新聞2019年11月29日号に掲載されたものです。

河村 誠一郎 CRDSフェロー/エキスパート(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学工学部物理工学科卒。米プリンストン大学大学院修了。富士通にてCMOSの研究開発に従事。産業技術総合研究所、半導体先端テクノロジーズ(Selete)を経て2009年より現職。JST-ACCELプログラムマネージャー、慶応義塾大学大学院訪問教授を兼務。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(33)SCM、究極のメモリー目指して(外部リンク)