2026年9月18日

ショートレポート AI for Science Spotlights Vol.6
「マテリアル分野におけるAI駆動型研究開発の動向 ―AI研究開発システムの機能と自動自律段階からみる現在地―」

Points


(画像は生成AIを用いて作成)
  • わが国では、マテリアルDXを基盤として、AI・データ・ロボティクスを統合したAI駆動型研究開発の加速に向けた取組が進められている。
  • こうした動向を踏まえ、マテリアル分野のAI研究開発システムを扱う147文献(2025年以降を中心)を調査した結果、「知識形成型」、「Self-Driving型(設計・検証型)」、およびその融合型である「AIサイエンティスト型」の三つの発展方向が見えてきた。
  • 日本の大学や国立研究開発法人が手掛ける主要AI研究開発システムは、探索候補の生成や計算・予測を中心として、全体としてはSelf-Driving型に近い特徴を示している。今後は、設計・検証機能の高度化や知識形成型との融合発展が期待される。

マテリアル分野では、研究開発や製造プロセスに計算科学やデータ科学を取り入れるデジタルトランスフォーメーション(マテリアルDX)が進展してきた。近年ではさらに、生成AIやロボティクスの進歩を背景として、AIを利用した材料探索や自動・自律実験に関する報告が相次いでいる。こうしたAIを利用した研究開発を、本稿では「AI駆動型研究開発」と呼ぶ。

日本のAI駆動型マテリアル研究開発に関する政策動向

わが国でも、マテリアルDXの推進に向けて、マテリアルデータの収集・蓄積・利活用を支えるデータ基盤や、製造プロセスデータの収集・活用を支えるプラットフォームの整備が進められてきた。2025年6月に改訂された「マテリアル革新力強化戦略」[1]では、これまで進めてきたマテリアルDXをさらに推進するとともに、AI、ロボティクス、ハイパフォーマンスコンピューティング等の新たな手法の導入を加速する方向性が示された。

さらに、2026年6月、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「マテリアル戦略」は、「マテリアル革新力強化戦略」の推進方策に関する提言[2]を取りまとめた。この提言では、AI駆動マテリアル開発拠点を形成し、国内外のネットワークを強化するとともに、データ連携、大規模AIモデル、AI駆動マテリアルラボシステム等の開発を進めることが掲げられた。あわせて、マテリアルAI人材の育成や国際連携、国際標準化の推進に関する方策も提起されている。

こうした動向を背景に、本稿ではAI駆動型研究開発の現在地を把握するための文献調査を実施した。

AI駆動型マテリアル研究開発の現在地

近年のマテリアル研究開発では、文献やデータからの知識獲得、研究アイデアや科学的仮説の生成、研究計画の設計、探索候補の生成、計算・予測、実験、得られた結果の解釈・知識化など、研究開発サイクルのさまざまな機能へとAIの利用が広がっている。また、これらの機能を連携させ、研究開発サイクル全体の自動化・自律化を目指したシステムの研究も数多く報告されている。一方、それぞれのシステムが担う研究機能や、自動化・自律化の程度には大きな違いがある。「closed-loop」「end-to-end」「self-driving」「autonomous」「agent」など様々な概念や名称が用いられているが、それらが研究開発サイクルのどの部分を扱い、どの程度の自動化・自律化を実現しているのかは一様ではない。そのため、事例を個別にみるだけでは、マテリアル分野におけるAI駆動型研究開発の全体像を把握することは容易ではない。

そこで本稿では、研究開発の全体または一部にAIを利用するシステムを「AI研究開発システム」と呼ぶこととし、AI研究開発システムを扱うマテリアル研究開発分野の147文献[注1]を対象として、各システムが有する機能とその自動自律の段階を調査した。

図1に、今回の調査で設定したAI研究開発システムの機能構成を示す。
研究開発プロセスを、①知識獲得、②研究アイデア生成、③科学的仮説生成、④研究計画設計、⑤候補生成、⑥計算・予測、⑦実験、⑧解釈・知識化の8機能に分け、さらに複数の機能を連携・制御する、⑨オーケストレーションを加えた9機能として整理した。ここでは、①、②、③、⑧を「知識形成機能」、④、⑤、⑥、⑦を「設計・検証機能」と呼ぶこととする。各システムが有する機能を一貫した基準で同定するため、各機能に対応する「出力物」に基づいて①~⑧の機能を分類した(表1)。


図1 AI研究開発システムの機能構成

表1 AI研究開発システムの機能および出力物の分類

147文献を調査[注2]した結果、機能によって自動自律の段階には大きな違いがみられた(図2[注3])。各機能の自動自律の段階については、0~5までの6段階を設定している[注4](表2)。


図2 147文献における機能別自動自律段階の分布

表2 機能の自動自律段階

⑤候補生成と⑥計算・予測は、高い自動自律段階を示すシステムが比較的多い。これらは、主として計算機内で多数の候補を探索し、その特性を予測・評価するマテリアルズ・インフォマティクスを特徴づける機能であり、マテリアル分野におけるデータ駆動型研究開発の中でも比較的早い時期から取り組まれてきた。また、⑨オーケストレーションについても比較的高い自動自律段階を示す例がみられた。今回調査対象とした文献では、複数のモデルやツールを連携・制御するオーケストレーション機能を備えたシステムが数多く報告されており、個別機能の高度化だけでなく、それらを統合する取り組みも進展していることが確認された。

一方、②研究アイデア生成、③科学的仮説生成は、これらの機能を備えるシステムが限定的であった。また、⑦実験についても、本調査で対象とした文献においては、物理実験機能まで組み込んだAI研究開発システムは限定的であった。

①知識獲得、④研究計画設計、⑧解釈・知識化は、その中間に位置していた。

さらに、研究開発サイクル内で結果をフィードバックし、次の行動を変更する「段階4」のシステムは一定数みられたものの、研究開発サイクルを越えて経験を蓄積し、それに基づいて行動を継続的に改善する「段階5」に相当する例はほとんどみられなかった。

このように、本調査で対象とした文献に登場するAI研究開発システムでは、自動自律の段階に機能間で大きな差がみられるとともに、自動自律段階の高い機能の分布にも、システムごとの差異がみられた。

AI研究開発システムの三つの発展方向

個々のシステムの機能および自動自律段階を比較してみると、現在のAI研究開発システムには、表3に示す三つの発展方向がみえてきた[注5]。

表3 AI研究開発システムの発展方向

本調査で対象とした文献における代表的なシステムを見ると、「AIサイエンティスト型」にはA-Lab GPSS(米)[3]やMARS(中)[4]、「知識形成型」にはGraph Agents(米)[5]、AtomAgents(米)[6]、DDSE-LLM(東北大学)[7]、HEP(東京大学)[8]、「Self-Driving型(設計・検証型)」にはCL-PSC(中)[9]、CRESt(米)[10]、Coscientist(米)[11]、CARCO(中)[12]などが挙げられる(各システムの説明は参考文献欄を参照)。

各発展方向の代表システムを対象に、自動自律段階の平均値を算出したものが、図3左である。「知識形成型」では、②研究アイデア生成や③科学的仮説生成などの知識形成機能で高い自動自律段階がみられる一方、「Self-Driving型」では、④研究計画設計、⑤候補生成、⑥計算・予測、⑦実験といった設計・検証機能の自動自律段階が高い。また、①知識獲得、⑧解釈・知識化、⑨オーケストレーションは、両方の型に共通して自動自律段階が高い。

これに対して「AIサイエンティスト型」は、知識形成機能と設計・検証機能の両方で高い自動自律段階を示している。すなわち、知識形成機能を高度化する方向と設計・検証を高度化する方向がそれぞれ発展し、その接続・統合によって研究開発プロセス全体を担うシステムへと向かう動きと捉えられる。


図3 調査対象文献におけるAI研究開発システムの機能・自動自律段階の平均:(左)三つの発展方向別、(右)日本の機関が発表しているシステムの平均

代表システムの例にみられるように、今回調査した文献の範囲[注6]では、米国と中国から多くの報告がなされている。特に、「AIサイエンティスト型」や「Self-Driving型」では、両国の存在感が大きい。一方、知識形成型システムについては米国の存在感が特に大きく、代表的システムの多くが米国から報告されている。

日本からも、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、東京大学、東京科学大学、東北大学、理化学研究所などを中心に、多様なAI研究開発システムが報告されている。日本の機関が発表している代表的システムの機能・自動自律段階の平均(図3右)をみると、⑤候補生成、⑥計算・予測、⑨オーケストレーションが比較的高い。一方、④研究計画設計と⑦実験は、相対的に低い水準にとどまっている。

今後へ向けて

日本の研究機関が開発・発表するマテリアル分野のAI研究開発システムは、現状、候補生成や計算・予測を中心としたシステムが多く、全体としてはSelf-Driving型に近い特徴を示している。近年は、知識形成型システムも現れ始めている。今後は、④研究計画設計や⑦実験を含む設計・検証機能の高度化を進めるとともに、知識形成型システムとの融合発展により、新たなAI研究開発システムの創出が期待される。

また、AI研究開発システムは、AI駆動型マテリアル研究開発を構成する要素の一部に過ぎないことにも留意が要る。特に今後、日本の産学における研究開発の方向をより明確にしていくためには、AI研究開発システムだけでなく、図1の外縁にも示したデータ・知識基盤や研究インフラ基盤、さらに、それらを支えるAI基盤モデルや制度・運用環境を含めた総合的な取り組みの検討が重要になると考えられる。

(大淵 真理・阪口 幸駿・澤田 莉沙・杉村 佳織・永野 智己)
2026年9月18日

脚注

  1. 本稿では、マテリアル分野におけるAI利用研究の先進的な事例を把握するため、関連論文の掲載実績を有するNature等の主要学術誌約10誌およびarXiv等のプレプリントサーバーを対象に文献を検索した。検索には「closed-loop」「end-to-end」「self-driving」「autonomous」「agent」等の語を用い、総合誌については必要に応じて「materials」「chemistry」「catalyst」等の分野を示す語を組み合わせ、原著論文を収集した。さらに、マテリアル分野のAIエージェントおよび関連ツールに関する総説論文3報の引用文献を確認するとともに、国内事例については関連分野の研究者・研究グループ名を用いた追加検索を行った。以上の方法により収集した147文献を調査対象とした。なお、本調査は先進的事例の把握を目的とした探索的な文献調査であり、当該分野の網羅的な調査を目的としたものではない。
  2. 本調査では、生成AIを用いて機能と自動自律段階の同定を実施した。
  3. 調査の結果、今回、段階「1」に該当するシステムは無かった。そのため、図2のグラフ上でも段階「1」の表記を省略している。
  4. 設定に際しては、将来的な構想や期待性能ではなく、原則として文献中で実際に実証が示されている機能を対象とした。また、マテリアル分野の研究開発では、実験や計算によって得られた結果を次の探索や設計へ反映する閉ループ(Closed-loop)型の研究開発プロセスが重要であることから、こうした動的なフィードバックの実現状況を自動自律段階の設定に反映した。
  5. これらは個々のシステムを三つに分類することを目的としたものではなく、機能と自動自律段階の分布の特徴からみえてくる技術発展の方向性を整理したものである。
  6. 本調査は国別の研究開発力を定量的に比較するよう設計したものではないため、各国の文献数や平均値は、今回抽出した事例の範囲における傾向として解釈する必要があることに注意。

参考文献

  1. 内閣府 統合イノベーション戦略推進会議、「マテリアル革新力強化戦略 ― 知のバリューチェーンの構築を通じて ―」(2025年6月4日)(外部リンク)(アクセス日:2026年8月24日)
  2. 内閣府 イノベーション政策強化推進のための有識者会議「マテリアル戦略」、「マテリアル革新力強化戦略推進方策〈提言〉」(2026年6月12日)(外部リンク)(アクセス日:2026年8月24日)
  3. Yuxing Fei, et al., "Agentic LLM Reasoning in a Self-Driving Laboratory for Air-Sensitive Lithium Halide Spinel Conductors." arXiv (2026).(A-Lab for Glovebox Powder Solid-state Synthesis:帰納推論による研究方向の提案と、仮説形成推論による原因仮説生成・検証を担う相補的なエージェントを統合した適応最適化研究開発システム)(外部リンク)
  4. Tongyu Shi, et al., "Knowledge-driven autonomous materials research via collaborative multi-agent and robotic system." Matter 9 (2026): 102577.(Multi-Agent and Robot System:19のLLMエージェントと16の専門ツールを協調させる階層アーキテクチャにより、研究開発サイクル全体の設計・実行・最適化を行う適応最適化研究開発システム)
  5. Isabella A. Stewart, et al., "GraphAgents: Knowledge Graph-Guided Agentic AI for Cross-Domain Materials Design." arXiv (2026). (GraphAgents :5つの専門エージェントが知識グラフ探索により潜在的な関連性を発見し、研究アイデアや材料設計仮説を生成する自律仮説生成システム)(外部リンク)
  6. Alireza Ghafarollahi, Markus J. Buehler, "Automating alloy design and discovery with physics-aware multimodal multiagent AI." Proc. Natl. Acad. Sci. 122 (2025): e2414074122. (AtomAgents:専門エージェント群が知識検索、物理シミュレーション、結果解析を協調的に実行し、合金設計における仮説生成・検証・改良を反復する適応最適化研究開発システム)
  7. Qian Wang, et al., "Unraveling the Complexity of Divalent Hydride Electrolytes in Solid-State Batteries via a Data-Driven Framework with Large Language Model." Angew. Chem. Int. Ed. 64 (2025): e202506573.(Dynamic Database of Solid-State Electrolyte-LLM:DDSE(固体電解質データベース)とLLMを活用し、研究アイデア生成、科学的仮説生成、物理シミュレーションによる検証を統合して候補探索を行う研究開発システム)
  8. Izumi Takahara, Teruyasu Mizoguchi, "Toward Auditable AI Scientists: A Hypothesis Evolution Protocol for LLM Agents." arXiv (2026). https://doi.org/10.48550/arXiv.2607.09195.(Hypothesis Evolution Protocol:LLMエージェントが仮説生成、計算による検証、解釈、仮説更新を繰り返しながら、仮説の進化過程を監査可能な形で管理する自律仮説生成システム)
  9. Danpeng Gao, et al., "Autonomous closed-loop framework for reproducible perovskite solar cells." Nature 653 (2026): 707.(Closed-Loop PSC framework:アクティブラーニングと量子化学計算による候補探索と、ベイズ最適化・シンボリック回帰による自動製造を統合した適応最適化研究開発システム)
  10. Zhen Zhang, et al., "A multimodal robotic platform for multi-element electrocatalyst discovery." Nature 647(2025): 390.(Copilot for Real-world Experimental Scientists:マルチモーダルLLMを活用し、文献知識や画像情報を組込んだベイズ最適化、ロボット実験、異常診断を統合した適応最適化研究開発システム)
  11. Daniil A. Boiko, et al., "Autonomous chemical research with large language models." Nature 624 (2023): 570.(Coscientist:GPT-4を中核に、文献検索、コード生成・実行、自動実験を統括し、実験計画・実行・反応条件最適化を行う適応最適化研究開発システム(物理作業には一部人が介入))
  12. Yue Li, et al., "Transforming the synthesis of carbon nanotubes with machine learning models and automation." Matter 8 (2025): 101913.(Carbon Copilot:Carbon_GPTによる研究方向提案、Carbon_BERTによる候補探索、ロボット実験、デジタルツインを統合し、材料探索と合成条件最適化を行う適応最適化研究開発システム)

DOI

https://doi.org/10.82643/crds-fy2026-sr-06

AI for Scienceをめぐる国内外の政策動向や研究開発の潮流を、コンパクトに整理するショートレポートシリーズ。各号では、時宜に応じた注目テーマにスポットライトを当て、その背景、具体的な動き、今後の展望を紹介します。