2026年7月17日

ショートレポート AI for Science Spotlights Vol.1
「AI for Scienceの現在地 ―研究プロセスを変えるAIの広がり―」

Points

  • 科学研究の新たなパラダイムとして、AI for Scienceの関心が国内外で高まっている。CRDSでは、変化の速いAI4Sの技術・政策動向を機動的に捉えるため、ショートレポートシリーズを開始する。
  • AI for Scienceは、個別のAIツールの導入にとどまらず、支援系のAI for Scienceから自律系のAI for Scienceまで、科学研究プロセスの各段階に多様な形で組み込まれ始めている。
  • 近年は、GoogleのAI Co-Scientist、Sakana AIのAI Scientistなど、文献探索、仮説生成、実験・解析、レポート作成といった研究ワークフローの一部または複数工程をAIで支援・自動化しようとする事例が相次いで報告されている。

科学研究は今、大きな転換点を迎えている。実験科学、理論科学、計算科学、データ駆動型科学に続く新たな科学研究のパラダイムとして、AIを科学研究に活用する「AI for Science」が国内外で広がりつつある。JST-CRDSは、2026年2月に公表した『AI for Scienceの動向2026 ―AIトランスフォーメーションに伴う科学技術・イノベーションの変容』[1]において、AI for Scienceを、AIが科学研究の各段階に入り込み、仮説生成、実験・観測、データ解析、知識統合などに変化をもたらしうる「第5の科学研究パラダイム」としての見方を報告した。各研究現場においても、研究プロセスの一部に変容が起き始めている。

日本においても、AI for Scienceは重要な政策テーマの一つとして位置づけられている。文部科学省は2026年3月に「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」[2]を策定し、AI for Scienceを単なる研究手法の高度化にとどまらず、研究システムそのものの再設計を伴う課題として位置づけている。具体的な施策として「AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)」[3]や「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」[4]を開始した。

このようにAI for Scienceは研究現場と政策の双方で取り組みが進展するが、その射程は非常に広い。AIによる文献調査やデータ解析の支援もAI for Scienceであり、AIが仮説を生成し、実験計画を立て、ロボット実験を制御し、その結果をもとに次の実験条件を提案することもAI for Scienceである。さらに、AIが問いの設定、仮説生成、証拠の評価、研究方針の判断などに関与するようになれば、科学者の知的活動そのものにAIが関与することにもなる。

近年のAIエージェントの発展は、こうした動きを加速させている。AIエージェントとは、目的に応じて複数の作業を組み合わせ、外部ツールやデータベースなども利用しながら、一定の自律性をもって作業を進めるAIシステムを指す。科学研究においても、文献探索、仮説生成、コード作成、実験計画、解析、レポート作成などを連続的に支援する事例が登場しており、AI for Scienceの実装形態は一層多様化している。

こうした状況を踏まえ、このショートレポートシリーズでは、変化の速いAI for Scienceに関する技術潮流、政策潮流、研究領域別の動向、国内外の注目事例などを取り上げる。第一弾となる本稿では、今後の各論に入る前提としてAI for Scienceの全体像を整理するとともに、科学研究プロセスの変容におけるAI for Science最新動向を概観する。

AI for Scienceの全体像


図1:AI for Scienceの全体像[1]

AI for Scienceは、個別のAIツールを研究に導入することにとどまらない。図1に示すように、AIは、文献調査、仮説生成、予測、実験計画、データ取得、解析、解釈、論文化、成果の再利用といった科学研究プロセスの各段階に入り込み始めている。

AIの関わり方にも幅がある。たとえば、文献探索やデータ解析のように、研究者の作業を補助する形態がある一方で、AIが実験条件を提案し、ロボットや実験装置が実験を行い、その結果をAIが解析して次の実験計画につなげるような、より主体的・自律的な形態も現れつつある。このように、AI for Scienceは、研究者を支援する機能だけでなく、研究プロセスの一部をAIが自律的に担うことへと広がり始めている。さらに、AI for Scienceはソフトウェアとして完結するものではない。文献、データ、シミュレーション、コードを扱うバーチャルな研究環境と、実験装置、計測機器、ロボットを伴うフィジカルな研究環境が接続されることで、仮説生成、実験、解析、次の仮説生成を繰り返す、閉ループ型研究システムの構築も試みられている。

また、AIが研究上の判断に関わるようになれば、研究の信頼性、再現性、結果責任の所在、研究公正、セキュリティ、研究成果の社会実装の在り方等もそれぞれ論点になる。そのため、AI for Scienceは、AIモデルや実験自動化だけでなく、それを支えるデータ、計算資源、標準化、ガバナンスも含めて捉える必要がある。

研究プロセスにおけるAI活用

AIが研究プロセスにどのように入り込むかをより詳しく見ると、図2のように整理できる。科学研究の一般的なプロセスは、大きく、①仮説生成・予測・実験・知識の再構成からなる「研究者や研究プロジェクトレベルのサイクル」、②論文執筆・査読・修正・公開・後続研究へとつながる「研究コミュニティレベルのサイクル」、③技術移転・社会的評価・社会受容・新たな社会的要請へとつながる「社会レベルのサイクル」の三層のサイクルとして理解することができる[5]


図2:3層の科学研究サイクル[5]

各サイクルの各ステップにAIが入り込み、研究者の判断や作業を補助する形態を「支援系AI for Science」と位置づける。支援系AI for Scienceは、文献探索、知識統合、仮説生成、研究計画、実験設計、データ解析など、研究者が従来担ってきた知的工程を補助・高度化するものである。代表的な例として、タンパク質構造予測を大きく前進させたAlphaFoldが挙げられる。これはAIが特定の研究工程を高度に支援することで、生命科学分野の研究の進め方に大きな影響を与えた事例であり、支援系AI4Sが科学研究に与えるインパクトの大きさを示している。近年はさらに、Googleが開発したCo-Scientist[6]やFutureHouseの科学向けAIシステム[7]のように、単なる情報検索や要約にとどまらず、仮説の生成、検証方針の提案、先行研究との照合まで支援する事例が登場している。これらは、研究者の活動を置き換えるというよりも、研究者による探索範囲を拡張し、研究計画の質や速度を高めるものとして位置づけられる。

一方で、AIが複数の研究工程を連動させながらより主体的に実行する形態を「自律系AI for Science」と捉えることもできる。自律系AI4Sは、仮説生成、実験計画、実験・観測、解析、論文化、さらに次の問いの設定までを閉ループ的に接続するような形態が検討されている。

自律系 AI for Science

現在、研究プロセスの自律化に向けたAI for Scienceの展開として、大きく二つの方向性が見られる。第一は、自律型実験室(Self-Driving Lab: SDL)[8]である。これは自動化された実験装置、ロボティクス、AIによる実験計画を組み合わせ、実験条件の探索、測定、解析、次の実験条件の提案までを閉ループで行う研究システムである。材料、化学、生命科学など、実験条件の探索空間が広く、人手による試行錯誤に限界がある分野で特に注目されている。日本では、材料探索基盤において既存の自動ロボット実験装置にAIをできるだけ簡単に接続することを目的として開発された物質・材料研究機構(NIMS)のNIMO[9]や、生命科学実験を自動化するロボットである理研のLabDroid Maholo[10]などが挙げられる[11]。海外では、米国ローレンス・バークレー国立研究所等の研究グループによる無機材料合成を自律的に進める実験室Autonomous Laboratory(A-Lab)[12]など、実験計画、合成、測定、解析をAIとロボットで連動させる取り組みが進んでいる。さらに近年は、低コスト・モジュール型の自律化学実験プラットフォームであるオランダ アムステルダム大学のRoboChem-Flex[13]や、実験装置・解析・実験計画モジュールを接続するオープンソースのソフトウェアスイートARES OS 2.0[14]のように、SDLの導入障壁を下げ、より柔軟に構築するための取り組みも登場している。


図3:自律系 AI for Scienceの閉ループ[5]

第二は、AI科学者システムである。これは、文献探索、仮説生成、研究計画、コード作成、解析、論文執筆、レビュー支援など、研究者が担ってきた知的プロセスの一部をAIが支援・実行するものである。SDLが実験装置やロボットを含むフィジカルな研究環境と結びつくのに対し、この方向は、まずは文献、データ、コード、論文といったバーチャルな研究空間を中心に発展している。Sakana AIが発表したAI Scientist[15]は、研究アイデアの生成、コード作成、実験実行、結果の要約、可視化、論文執筆までを一連の流れとして自動化しようとするものであり、現時点では主に機械学習研究のような計算機上で完結しやすい領域を対象としている。

もっとも、SDLとAI科学者システムは、今後接続していく可能性も高いだろう。たとえば中国科学院が発表したMARS[16]のように、材料探索においてAIによる計画・判断とロボット実験を組み合わせる閉ループ型の研究システムも報告されている。

今後へ向けて

AI for Scienceは、AIを個別の研究支援ツールとして導入することとともに、研究プロセス全体を再設計する方向へ動き出している。今後は、文献探索、仮説生成、実験計画、データ解析、論文化といった各工程に入り込むAIシステムが相互に接続され、研究サイクルをより高速で循環的なものへ変化させていく可能性がある。とりわけ、SDLのように実験装置やロボットと接続するものや、AI Scientistのように知的研究プロセスを連続的に支援・実行する動きは、今後のAI for Scienceを捉えるうえで焦点となる。一方で、AIが研究判断に深く関わるほど、信頼性、再現性、結果に対する責任の所在、研究公正、セキュリティも重要な論点となる。

今後は個別のAIシステムの性能だけでなく、それを支えるデータ、計算資源、実験自動化、標準化などの研究基盤を整備するとともに、信頼性、再現性、責任の所在、研究公正、セキュリティ、ガバナンスといった制度・運用面の課題にも対応していく必要があるだろう。次回以降のショートレポートシリーズでは、こうした全体像を踏まえ、研究支援AIシステム、自律実験、科学基盤モデル、分野別の応用、国内外の政策動向などを取り上げ、変化の速いAI for Scienceの動向を継続的に紹介していく予定である。

(澤田 莉沙・杉村 佳織・阪口 幸駿・福島 俊一・永野 智己)
2026年7月17日

参考文献

  1. 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST-CRDS)「AI for Scienceの動向2026 ― AIトランスフォーメーションに伴う科学技術・イノベーションの変容」(2026)
  2. 文部科学省「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」(2026年3月31日)(外部リンク)(アクセス日:2026年5月27日)
  3. 科学技術振興機構(JST)「AI for Science 革新的研究推進事業(ARiSE)」(外部リンク)(2026)(アクセス日:2026年5月27日)
  4. 文部科学省「SPReAD 1000 ― 研究の可能性を、AIで解き放つ」(2026)(外部リンク)(アクセス日:2026年5月27日)
  5. 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST-CRDS)「AIと科学・産業・社会システム革新(研究開発の俯瞰報告書 システム・情報科学技術分野)」(2026)
  6. Gottweis et al., “Accelerating scientific discovery with Co-Scientist”, Nature(2026).(外部リンク)
  7. Ghareeb et al., “A multi-agent system for automating scientific discovery”, Nature(2026).(外部リンク)
  8. Tom et al., “Self-Driving Laboratories for Chemistry and Materials Science”, Chemical Reviews(2024).(外部リンク)
  9. Tamura et al., “NIMO: A Software Platform for Closed-Loop Materials Exploration with Diverse AI Algorithms”, arXiv(2026).(外部リンク)
  10. Kanda et al., “Robotic search for optimal cell culture in regenerative medicine”, eLife(2022).(外部リンク)
  11. Yoshikawa et al., “Self-driving laboratories in Japan”, Digital Discovery(2025).(外部リンク)
  12. Szymanski et al., “An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of inorganic materials”, Nature(2023).(外部リンク)
  13. Pilon et al., “A flexible and affordable self-driving laboratory for automated reaction optimization”, Nature Synthesis(2026).(外部リンク)
  14. Sloan et al., “ARES OS 2.0: An Orchestration Software Suite for Autonomous Experimentation Systems and Self-Driving Labs”, arXiv(2026).(外部リンク)
  15. Lu et al., “Towards end-to-end automation of AI research”, Nature(2026).(外部リンク)
  16. Shi et al., “Knowledge-driven autonomous materials research via collaborative multi-agent and robotic system”, Matter(2026).(外部リンク)

DOI

https://doi.org/10.82643/crds-fy2026-sr-01

AI for Scienceをめぐる国内外の政策動向や研究開発の潮流を、コンパクトに整理するショートレポートシリーズ。各号では、時宜に応じた注目テーマにスポットライトを当て、その背景、具体的な動き、今後の展望を紹介します。