2026年10月30日

第359回「拡大する米AI駆動科学」

米国エネルギー省(DOE)が主導する「ジェネシス・ミッション」は、AI(人工知能)を活用し研究開発のあり方を根本から変革する国家プロジェクトだ。日本が最初の国際パートナーとなり、6月に戦略的パートナーシップが発表された。日本の高品質な研究データと米国の大規模な研究インフラによる相乗効果が注目される。

大型国家事業
2025年11月に大統領令により始動したジェネシス・ミッションは、DOE傘下の国立研究所が持つ膨大なデータ、スーパーコンピューターやAIモデルを統合した「米国科学安全保障プラットフォーム」を構築し、科学的発見のプロセスを劇的に加速・変革する「AI駆動科学(AI for Science)」を推進する取り組みだ。「アポロ計画」などに匹敵する国家プロジェクトと位置付けられ、その規模は急速に拡大している。

7月には、国立衛生研究所(NIH)や航空宇宙局(NASA)、全米科学財団(NSF)など15を超える連邦政府機関が参加し、研究資金やデータ、計算資源を持ち寄り、全体で50億ドル(約8000億円)超を投じることが発表された。また、主要なプラットフォーマーやAI関連の新興企業などからも、AIモデルの無償利用など8億ドル(約1280億円)超の支援が表明された。さらに、DOEは研究公募「AIによる科学とエネルギーの変革」を通じて、総額2億9000万ドル(約464億円)の研究費助成を計画し、10月までにフェーズIとして283件、フェーズIIとして14件の研究プロジェクトへの支援を決定した。

もっとも、ジェネシス・ミッションが他の研究資金を圧迫しているとの批判は連邦議会からも出ている。研究開発費が特定分野へ過度に偏れば、科学技術予算全体の見直しの動きと相まって、全米の研究エコシステムを歪めかねないとの懸念も根強い。

11領域で協力
日米の戦略パートナーシップでは、量子情報科学、核融合、バイオ、先端材料、素粒子物理、自律型実験室など11領域の共同研究を展開する。両国は研究協力や計算資源の強化に向け、5年で計10億ドル(約1600億円)を投じることを表明した。

日本でも「AI for Science」を推進する研究プログラムが始動したところだ。日米連携を通じた研究成果の創出にとどまらず、国内の研究環境の高度化や人材育成を加速させ、わが国の科学的生産性を飛躍的に高めていくことが期待される。

※本記事は 日刊工業新聞2026年10月30日号に掲載されたものです。

<執筆者>
株本 浩揮 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

東京工業大学(現東京科学大学)大学院総合理工学研究科修士課程修了。電機メーカーにて燃料電池の研究開発に従事。09年JST入職、26年4月から現職。科学技術・イノベーション政策の動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(359)拡大する米AI駆動科学(外部リンク)