2026年10月16日

第357回「ノーベル物理学賞 巨大構想 新発見に結実」

宇宙に迫る
2026年ノーベル物理学賞は、南極のニュートリノ観測施設「IceCube(アイスキューブ)」を発案し、宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノの観測に成功した、米ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルツェン教授に授与されることが決まった。この功績は、高エネルギー宇宙線の起源や宇宙の成り立ちに迫る新たな研究の道を開いた。

ニュートリノは電荷をもたず質量も極めて小さい素粒子で、物質とほとんど反応しないため検出が難しい。02年の小柴昌俊氏、15年の梶田隆章氏のノーベル賞につながった宇宙素粒子観測装置「カミオカンデ」「スーパーカミオカンデ」は、地下に設置した大量の純水とニュートリノのまれな反応により生じる微弱な光を検出した。

南極の氷で観測
一方、アイスキューブでは水の代わりに南極点付近の氷を利用する。深さ1500-2500メートルに球形光検出器を5000個以上埋め込み、スーパーカミオカンデの約2万倍の体積の氷全体を巨大な検出装置とした。球形光検出器の心臓部には、日本製の光検出部品が使用されている。ハルツェン氏は日本の大学を含む14カ国・450人以上が参加する国際共同研究を主導し、この巨大装置を使って高エネルギーニュートリノの検出、さらには発生源である天体の特定に至った。

アイスキューブが捉える天体起源ニュートリノは、大気・太陽・超新星ニュートリノよりはるかに高エネルギーだが、地球への到来頻度は極めて低い。その起源は、巨大ブラックホール周辺などに生じる「宇宙の粒子加速器」であり、そこで加速された超高エネルギー粒子と周囲の物質との衝突反応によって、高エネルギーニュートリノが発生する。

ニュートリノは宇宙の磁場で曲げられず、発生源から直進して地球に届く。アイスキューブなどでこれを常時監視し、ガンマ線や多波長の電磁波観測と組み合わせる「マルチメッセンジャー天文学」により、積年の謎であった高エネルギー宇宙線の発生源や、宇宙の極限環境を探ることが可能となった。未知の物理現象の解明も期待されている。

物理学賞が一つの業績で1人だけに授与されるのは、1992年以来である。数百人が参加するビッグサイエンスで、その構想をけん引したハルツェン氏が授賞対象となったのは、観測の実現が人類の知に極めて大きな進展をもたらした証しといえる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年10月16日号に掲載されたものです。

<執筆者>
眞子 隆志 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士卒。電機メーカーにおいて、酸化物材料、携帯燃料電池、半導体実装などの研究開発に従事。19年から現職、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)、技術士(応用理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
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