2026年9月11日

第353回「独、博士キャリア改善急ぐ」

良好な就職環境
知の基盤としての「科学の再興」を目指し、博士号取得者を2030年以降に年2万人に増やす目標が第7期科学技術・イノベーション基本計画に盛り込まれた。日本としばしば比較される工業国ドイツでは、博士人材は多く就職環境も良好だが、研究者としてのキャリア形成には課題がある。

ドイツで博士号を取得する人は年間約2万8000人で、日本の約1.8倍、人口当たりでは約2.7倍に達する。

博士課程在籍者の8割程度は、大学や研究機関で非常勤研究者として研究に取り組んでいる。残りの約2割は、研究機関が大学と連携して指導を行う博士課程プログラムに参加する。

研究者流動促す
博士号取得者の就職状況は良好で、特に化学や生物学などは、修士号取得者と比べて給与水準も高い傾向にあることが、連邦政府の報告書(2025)に示されている。

もっとも、教授職の社会的地位が高い一方で、そのポストをめぐる競争は極めて激しい。教授就任の平均年齢は40歳前後で、他の職業に比べてライフプランを描きにくいとも言われている。

文部科学省の資料によると、日本では博士課程修了者のうちアカデミアに残るのはわずか18%だが、ドイツでは40%超が残る。ただし、その後も研究機関に長くとどまれるとは限らない。

優秀な人材の流動性を高め社会への貢献を促すため、科学有期雇用法により、有期雇用では医学分野を除き最長12年間(博士課程6年、ポスドク6年)しか研究機関に在籍できないと定められているからだ。

本来、若手研究者に博士号取得の機会とキャリア展望を提供する目的で導入された同法だが、結果として、限られた期間内に研究成果を上げて安定した研究ポストを得られなければ、アカデミアを離れざるを得ない構造を生んでいる。海外でのポスドク経験や民間資金による雇用期間は算定から除外される措置もあるが、不安定な職業であることに変わりはない。

少子高齢化が進む中、高度専門人材の確保は近年ドイツでも盛んに議論されている。海外の優秀な研究者を呼び込む「1000 Heads+プログラム」が25年に開始され、同年6月までに300人を超える研究者を獲得した。しかし、外国人研究者の定着を図るためには、研究環境のさらなる整備が不可欠だとの見方が大勢だ。博士人材の確保に向けては、人数の拡大だけでなく、多様なキャリアパスと安定した研究環境の構築が、日独共通の課題といえる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年9月11日号に掲載されたものです。

<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

00年にミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。14年から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(353)独、博士キャリア改善急ぐ(外部リンク)