2026年9月4日

第352回「日本もGHG排出枠取引へ」

開発初期重要に
温室効果ガス(GHG)排出量の確実な削減と正確な把握が、法令改正により2027年度から日本でも本格的に求められるようになる。こうした要請に応える新技術を社会実装するには、開発の初期段階から環境への影響や経済性を客観的に見極める「評価の科学」が不可欠である。

世界では、GHG排出量の上限設定や排出枠取引が45カ国に広がっている。排出枠に価格を付ける仕組みは、排出削減への直接的な経済インセンティブとなる。また、排出規模の大きな企業には、サプライチェーン(供給網)全体の排出量(スコープ3)の開示を義務付ける国も多い。

日本でも、27年度から二酸化炭素(CO2)排出量が年間10万トン以上の事業者を対象に排出枠取引が始まる。時価総額の大きな企業にはスコープ3開示も順次義務付けられる見通しだ。

こうした制度強化を背景に、排出削減や炭素除去の新技術の開発・導入が進む。例えば、廃食油やバイオマスを活用した持続可能な航空燃料(SAF)は有力な選択肢である。また、大気中のCO2を直接回収して長期貯留する技術(DACCS)は初期商用化段階に入り、海外では企業による長期購入契約も始まった。

経済協力開発機構(OECD)によれば、米国がスコープ3開示の制度化を撤回するなど、国際情勢や経済的圧力による一時的な減速は見られるものの、長期的には各国にとって最優先の政策課題であり続けている。

GHG削減技術は単体で高性能であっても、運用現場で期待通りの削減効果を発揮するとは限らない。そのため、導入後の削減・除去量の測定、報告、検証(MRV)が不可欠となる。

社会実装見据え
さらに技術の評価では、削減量にとどまらず、生物多様性や土地利用、水質への影響といった環境負荷に加え、コストや収益性といった経済性も多角的に考慮する必要がある。

このため開発初期段階から、原料調達から廃棄までの環境負荷を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)や事業性を評価する技術経済評価(TEA)の重要性が増している。将来の環境負荷を見通す考え方は1990年代前半から発展し、2000年代以降には実用化前の技術を対象とした事前評価(エクスアンテLCA)の応用や、将来の社会条件を織り込んだ評価手法の体系化が進んできた。

これらLCA、TEA、MRVを連動させた統合評価こそが、実効性ある技術の選定と確実な社会実装を支える基盤となる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年9月4日号に掲載されたものです。

<執筆者>
桑原 明日香 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東京大学大学院理学系研究科博士後期課程修了。英国、スイスでの8年間の基礎植物学研究を経験後、21年から現職。ライフサイエンスおよびバイオテクノロジーに関する研究開発戦略立案を担当。博士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(352)日本もGHG排出枠取引へ(外部リンク)