第351回「構造材料の機能創出へ」
社会ニーズ
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)や資源循環が求められる中、構造材料研究は「強さ」を追求する時代から「機能」を創出する時代へと移行している。異常を検知するセンシングや、損傷を自らの力で回復させる自己修復といった機能を備えた「多機能構造材料」が次世代技術として注目されている。
構造材料は自動車、航空宇宙、インフラ、エネルギー設備など、社会を支えるあらゆるシステムの基盤であり、これまで高強度化、高靭性化、耐環境性向上を中心に研究開発が進められてきた。近年では、材料開発においても軽量化や省資源化などの観点が強く求められている。
科学技術振興機構(JST)が2月に実施した、構造材料分野を取り巻く技術動向や社会ニーズに関する俯瞰ワークショップでは、「強さ」や「長寿命化」といった従来の性能の追求に加え、リサイクル性や自己修復機能などを材料そのものに内包させる方向への期待が高まっていることが確認された。例えば、1000度Cに加熱すると酸化物が生成して亀裂を埋め、強度が回復する自己治癒セラミックスの研究が進んでいる。この技術を応用すれば、大気圏と宇宙空間を繰り返し往復して利用される宇宙往還機の機体に亀裂が生じても、飛行中の空力加熱により自ら修復するため、着陸後の修理時間を削減でき、短期間での再飛行が可能となる。
こうした潮流の先に位置付けられるのが「機能・構造一体化」を実現する多機能構造材料である。これは構造を支えるという本来の役割に加え、センシング、エネルギー貯蔵、環境応答などの機能を併せ持つ次世代材料として期待されている。例えば、材料自らが損傷を検知して異常を通知する機能や、振動エネルギーを回収して電力として活用する機能などが実現すれば、社会インフラやモビリティーの安全性・効率性を向上させる可能性がある。
価値生み出す
このワークショップや調査を通じて見えてきたのは、構造材料が単なる「支える材料」から「価値を生み出す材料」へと進化すべきという方向性である。その実現には材料科学だけでなく、デバイス工学、データ科学、製造技術など幅広い分野との融合が不可欠である。
多機能構造材料が切り開く新たな可能性は、今後の産業競争力や持続可能な社会の実現にも大きな影響を与えるだろう。その未来に向けた研究開発のさらなる進展が期待される。

※本記事は 日刊工業新聞2026年8月28日号に掲載されたものです。
<執筆者>
川岸 京子 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
東京工業大学(現東京科学大学)大学院理工学研究科金属工学専攻博士後期課程修了。国立研究開発法人で耐熱合金などの研究開発に従事。25年から現職(併任)。構造材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。
<日刊工業新聞 電子版>
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