第350回「研究評価改革 まず自己点検」
文化を形づくる
研究評価は管理の手段ではない。「よい研究活動」とは何かを示し、研究活動や若手研究者のキャリア選択に影響を与えることで、研究文化そのものを形づくる役割を果たす。また、研究者間の共通認識が評価基準に反映される循環的な構造を持つ。
こうした中、経済協力開発機構(OECD)は4月、ポリシーブリーフ「よりよい科学のための研究評価改革」を公表した。現行の研究評価では、論文数や被引用数といった指標への偏重が、社会的インパクトなどの重要な活動の過小評価につながり、望ましくない行動を助長していると指摘している。加えて、研究者の評価負担増への対応の必要性も挙げている。その上で、各国政府に対し、費用対効果に優れた透明性の高い評価手法の開発や、AI(人工知能)を適切に活用した研究評価の仕組みづくりを支援するよう提言した。
研究評価改革の機運が国際的に高まっているが、制度改革との間には大きな隔たりがある。評価の見直しが遅ければ、質より数を優先した論文投稿や過度な競争が続くことになる。だからこそ、この機運を研究機関やファンディング機関の評価制度設計に反映させる具体策が求められている。
具体的に見直し
こうした隔たりを埋める動きとして注目されるのが、研究機関や研究助成機関向けの実践的なガイドやツールである。研究評価改革を国際的に推進する「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」は、5月に研究助成機関向けの実践ガイドを公表した。公募要領の設計や採択審査に研究評価改革を取り入れる際の検討事項や注意点を、事例とともに紹介している。日本でも東京大学や理化学研究所、科学技術振興機構(JST)などがDORAに署名しており、国内機関にとっても直接関わる取り組みだ。
また、公的なファンディング機関の国際ネットワークであるグローバル・リサーチ・カウンシル(GRC)も、ファンディング機関向けの自己点検ツールを公表している。これは各機関が自らの評価制度を見直し、優先的に取り組むべき課題を明らかにすることを目的としたものだ。研究の質や社会実装への貢献を重視した審査基準の導入など、実効性の高い推奨事項が盛り込まれている。
評価改革は一朝一夕には進まない。しかし、こうした実践ガイドや自己点検ツールを日本の文脈に応じて活用することが、研究評価制度の具体的な見直しにつながる足がかりになるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2026年8月21日号に掲載されたものです。
<執筆者>
菊地 乃依瑠 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
政策研究大学院大学博士課程在籍中。同大学、京都大学、サイエンスメディアセンターにて取材や研究支援に従事。22年から現職。研究評価やEBPM(データなどの客観的な根拠に基づく政策立案)分野の調査を担当。修士(文学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(350)研究評価改革、まず自己点検(外部リンク)