第347回「「仏モデル」で起業支援」
フランスをモデルとしたスタートアップ支援策が東京で本格化している。東京都は2020年代に入り、フランスの知見を取り入れながら、相次いでイベントを開催したり支援拠点を開業したりしている。手本にしたのは「官が声をかけつつ社会全体で育てていく手法」だ。
官民連携の好事例
「米国のシリコンバレーなどは自然発生的にできており、必ずしも行政が関わっていない。官民連携の例としてフランスに注目した」と都の担当者は語る。フランスでは政府が自国の起業家や投資家らのコミュニティーを「フレンチ・テック」として認証するなど独自の施策を展開し、「30年までにユニコーン企業100社」などの目標を掲げる。
フランス政府の支援で設けられたパリの「スタシオン・エフェ」(SF)を参考に、都は23年11月、JR有楽町駅前に「東京イノベーションベース」を開業した。スタートアップが対象のイベントの開催やテストマーケティングなどの機能を持つ拠点施設で、SFと異なり参加企業の入居を義務とせず「誰でも出入り自由」として敷居を下げたことも特徴だ。
また都が23年から毎年開き、国内外からイノベーションの担い手が集まるイベント「スシテック東京」は、AI(人工知能)、量子、フードテックなどのいわゆるディープテック(DT)に絞ったセッションを設けているが、これは約18万人が来場するフランスの「ビバ・テクノロジー」の手法に学んでいる。「スシテック」は26年も4月に東京ビッグサイトで行われ、約6万人が来場した。
人的資源もカギ
ただ日仏間では、DTへの投資環境や人的資源のあり方をめぐる隔たりがあることも見逃せない。
DTは先進的な研究成果に立脚し、社会実装後の市場規模やインパクトが大きい。フランス政府は特に10年代後半から官民共同の投資対象として重視しているが、日本では資金力のある会社が外国企業に投資していることが多く、自国企業への投資が十分でない例がみられる。
フランスでは「フレンチ・テック」の認証を受けた拠点が全土に47カ所、国外にも78カ所存在する。その結果、起業家や投資家のつながりが強まり、仮に起業に失敗しても別のプロジェクトに取り込まれやすい環境となっている。だが日本にはそのような拠点が十分に整っていない地域も多い。
DTへの投資喚起に加え、人的なつながりの強い支援拠点をいかに構築していくかが、日本では問われている。

※本記事は 日刊工業新聞2026年7月24日号に掲載されたものです。
<執筆者>
内田 遼 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
慶応義塾大学経済学部卒業。全国紙記者などを経て、22年1月から現職。主にフランスの科学技術・イノベーション政策の動向調査を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
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