第343回「エネルギー転換の現場から㊤ 安保が変える技術投資」
米国トランプ政権による国益・安全保障優先のエネルギー政策への転換は、国論を二分しつつも、世界の技術投資に一石を投じている。化石燃料への依存度が高い日本は、同盟国である米国の動きをどう捉え、安定供給と脱炭素化を両立したエネルギー政策にいかに取り組むのか、その進路が問われている。
野心的な目標
技術開発を安全保障の基盤と捉える米国の政策転換は、4月に米国エネルギー高等研究計画局が開催した「エネルギー・イノベーション・サミット2026」の場でも確認された。
米国エネルギー省(DOE)のクリス・ライト長官は、過去の脱炭素偏重の政策が現実の電力供給能力や産業基盤を軽視してきたと厳しく指摘した。エネルギーを人類文明の「基盤」と位置付け、合理的な投資判断に回帰すべきとの見解を示している。
この方針を具体化する象徴的な動きが、DOEの科学担当次官であるダリオ・ギルがサミットであらためて強調した「ジェネシス・ミッション」だ。これは2025年11月の大統領令で打ち出され、半導体、AI(人工知能)、量子コンピューティングを統合し、米国の研究開発力を今後10年で倍増させる野心的な国家目標を実現するためのミッションである。その背景には、小型モジュール炉や高温ガス炉のような先進原子力や、重要鉱物といった戦略分野において、他国が国家主権を脅かしかねないほどのスピードで投資を進めていることへの強い危機感がある。
再工業化進む米
こうした認識の変化は、米国の投資のあり方にも及んでいる。サミットでは、アプリケーション開発やITサービスのような短期回収を狙うソフトウエア投資から、先進原子力や送配電網などの製造・インフラ基盤への投資に軸足を移す「愛国的資本」への転換が議論された。これは、国家の自立を維持するための実装能力そのものに資金を投じ、米国の「再工業化」を強力に推し進めるという考え方だ。富を生む源泉を再び自国の「物理的な実体」へと引き戻そうとする姿勢がうかがえる。この再工業化に向け、AI活用による研究開発の効率化を軸に、核融合炉の設計、核燃料リサイクル、重要鉱物の抽出などの分野で、社会実装をいかに加速させるかが議論の焦点となった。
米国のこうした政策転換は、わが国の戦略を単純に方向付けるものではない。しかしこの潮流は、わが国が科学技術の成果を迅速に社会実装していく「実装力」の強化という観点で、注視すべき事例だ。

※本記事は 日刊工業新聞2026年6月26日号に掲載されたものです。
<執筆者>
藤井 修 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)
早稲田大学大学院資源及び金属工学修士修了。総合化学メーカーにて研究開発・技術企画などに従事。25年4月から現職。環境・エネルギー関連分野の俯瞰調査と戦略立案を担当。修士(理工学)。
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