2026年6月19日

第342回「包括産学連携で課題解決」

環境変化に適応
産業界は今、生成AI(人工知能)や量子技術といった科学技術の非連続な進展、さらにはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)や少子高齢化などの複合的な社会課題への対応に迫られており、事業環境はまさにパラダイムシフトの渦中にある。この状況下、各企業は自前だけによる事業や技術開発の戦略設計が困難となり、将来を見据えた探索的研究や、複数分野にまたがる知の組み合わせを大学に期待する傾向が強まってきた。

しかし、研究開発戦略センターが実施した主要企業への聞き取り調査によると、特定テーマを大学の1研究室と進める従来型の「個対個」の共同研究では、探索研究や新仮説の取り込みが容易ではなく、事業環境の変化に柔軟に対応し切れないという構造的課題が浮かび上がってきた。

こうした課題を解決する取り組みの一つとして、わが国では2020年ごろから、大阪大学や東京大学などが先行する形で産学間の「包括的組織対組織連携(包括連携)」が急拡大している。

双方にメリット
包括連携により、大学側は研究成果を社会実装する接点が得られ、企業側は大学の組織的関与により継続的な探索研究や異分野融合の知見を得られるなど、双方にメリットがもたらされる。この互恵関係が産学連携の急増につながっている。その形態は、既存技術の中長期的な深掘りから未来シナリオの共創まで多様な類型を持つ。多くの企業はこうした連携に、不確実な未来への探索力強化という確かな手応えを認識している。一方で、体制が未成熟なために成果に結びつかなかったケースも散見される。

連携を実効的にするには、「経営トップ間の合意形成」「強力な産学の運営リーダーの存在」、および期待値を調整し続ける「運営組織体制の構築」がカギとなる。さらに「大学の総合的かつ高い研究開発力」を基盤に、「適切な情報管理」と「企業研究者の大学常駐」などを掛け合わせることで、産学間の距離を戦略的かつ大幅に縮めることが可能になる。

こうした包括連携は、大学と企業を地続きに結合する「科学とビジネスの近接化」を進める上で有効な枠組みであり、大企業と大規模大学を中心に広がりを見せている。今後は前述の成功のカギを意識して実効性を高めつつ、日本に適した共創モデルとして広く定着させられれば、わが国のイノベーション創出力は一層向上するものと期待される。

※本記事は 日刊工業新聞2026年6月19日号に掲載されたものです。

<執筆者>
満生 昌太 CRDSフェロー(横断・融合グループ)

九州大学大学院農学研究科修士修了。大手食品企業において、国内外の研究所などの部門長、執行役員を務めた後、24年から現職。科学技術・イノベーションエコシステムの調査を担当。博士(農学)。

<日刊工業新聞 電子版>
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