第341回「植物性食品開発 人の感覚・AI活用」
気候変動や窒素循環など地球環境への影響が大きい動物性食品を、現在の規模でエネルギーや資源を投じて消費し続けることの持続可能性が問われている。こうした背景から、植物性食品の活用を広げる動きが世界各地で起こっている。食の変容は容易ではないが、人の感覚やAI(人工知能)を活用した食品開発が進められている。
「満足感」を追求
動物性食品と植物性食品の違いは、油脂感や濃厚さという感性評価において顕著であり、植物性食品に対し「物足りなさ」を感じる消費者は少なくない。これを克服し、動物性食品に引けを取らない「満足感」のある植物性食品を目指した研究開発が進められている。
従来は食品の組成を分析し、足りない成分を加え、不要な成分を除く手法が多く用いられてきた。しかしこの場合、複数成分の重なりによって生じる味や香りなどの感覚的な特徴が捉えにくくなる。そのため、産業界ではさまざまな検討が進められてきた。例えば不二製油社では、成分ではなく感覚を同じにすることを重視したアプローチが採用された。こうして開発された「植物性だし」は、豚骨や魚介からの抽出により得られる「動物性だし」に近い風味を感じられると評価されている。
データ生かす
一方、チリのスタートアップ企業であるNotCoは、自社で開発したAIモデルにより課題解決を図っている。このAIモデルには、動物性食品(ターゲットデータ)と植物性食品(原料データ)に加え、配合データや消費者データなどの情報も盛り込まれている。この膨大なデータを活用し、パイナップルとキャベツからミルクの風味を創出するなど、従来にない原料の組み合わせから新たな食品を生み出している。また、中南米向けに動物由来原料を使わないハンバーガーや、乳製品を使わないミルクなどを展開するとともに、世界の大手食品企業との提携を進めており、企業評価額は15億ドルに達している。
日本の食品企業においても、自社に蓄積されている多様なデータを整備してAIを活用し、従来の官能評価と組み合わせて食品開発を進める時代が近づいてきていると考えられる。アカデミアにおいても食品成分の網羅的質量分析などが進み、データが蓄積しつつある。産学が協働してデータ基盤を構築し、AIも活用することで、より効率的な食品開発が可能になると期待される。

※本記事は 日刊工業新聞2026年6月12日号に掲載されたものです。
<執筆者>
小泉 聡司 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)
東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。化学メーカーにて新規事業の研究開発に従事。20年から現職。ライフサイエンス・生物生産分野の俯瞰調査・政策提言の作成に従事。博士(農学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(341)植物性食品開発、人の感覚・AI活用(外部リンク)