2026年5月15日

第337回「AI for Scienceの展望⑥ 研究活用と進化の好循環を」

通信・ネットワーク、セキュリティー、ロボティクスなどを扱う情報科学分野は、AI(人工知能)も内包しているため、科学研究にAIを活用するAI for Science(AI4S)の動きが他分野以上に進展している。AI4Sは各研究の進展に寄与しながら、AI自身の進化にもつながっている。

多分野で活用
例えば通信・ネットワーク分野では、無線周波数の割り当てやシステム障害時の対応をAIが行う仕組みが導入され始め、さらにAIを組み込むことを前提に設計した「AIネイティブ」の次世代ネットワークも検討されている。

セキュリティー分野では、大規模言語モデル(LLM)を利用してファームウエアの脆弱性を検出する研究や、SNSの不正アカウントを検出する研究などが進んでいる。一方、自然な文面で書かれたフィッシングメールの自動生成や、マルウエアのソースコードを自動生成・難読化するなど、攻撃側の手口の巧妙化にもAIが使われている。

ロボティクス分野においても、LLMを活用したロボット基盤モデルが登場し、画像理解・言語指示・行動計画・動作制御を一体的に扱う統合的な知能アーキテクチャーが形成され始めた。これにより、これまでロボットが苦手としていた環境変化や未経験タスクへの対応能力が高まっている。複数のタスクを単一の指示で遂行できるロボットの実現に近づいているといえるだろう。

新たな局面
一方で、AI4SがAIの能力を向上させる側面もある。代表例がフィジカルAIだ。

フィジカルAIとは、センサーなどを通して現実世界(物理世界)を理解し、ロボットなどの物理的な身体を伴ってタスクを遂行するAIである。デジタル空間が中心だったAIがロボットに搭載されることで、これまで十分に扱われてこなかった現実世界の物理法則や安全性などへの対応が必要になり、AIの進化が新たな局面に入っているといえる。

このように、AI4Sは各分野の研究を進展させるだけでなく、AIが新たな課題に直面することで、AI自身の進化が促進される可能性がある。AI4Sを進める上では、単なる各研究分野でのAI活用で終わるのではなく、AI自体の研究へのフィードバックが行われるような好循環を生み出すことが重要だろう。

※本記事は 日刊工業新聞2026年5月15日号に掲載されたものです。

<執筆者>
尾崎 翔 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

早稲田大学大学院創造理工学研究科修了。14年入職。産学連携事業、文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付(出向)、戦略創造事業での業務に従事し、21年10月から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(337)AI for Scienceの展望(6)研究活用と進化の好循環を(外部リンク)