2026年5月1日

第336回「AI for Scienceの展望⑤ マテリアルと「共進化」」

好循環生み出す
AI(人工知能)の急速な進化と普及は、計算資源の不足や膨大な電力消費という大きな壁に直面している。これを打破するカギとなるのが、計算基盤を支えるAIチップの進化だ。そのための新材料によるデバイスや半導体実装技術の研究開発には、AIが活用される。このマテリアルとAIが互いを高め合う好循環が「共進化」を生み出している。

2025年12月の「国際電子デバイス会議」や26年2月の「国際半導体回路会議」では、限られたエネルギー資源でAIの膨大な演算をいかに高速に処理するかという報告が相次いだ。

従来のチップ構造は、薄い板状の演算装置と記憶装置(メモリー)が横に並び、数ミリメートルの電気配線で結ばれている。AI演算では、この間を行き来する膨大なデータ移動が、処理の遅延や電力消費を招く最大のボトルネックだ。これに対し、両者を縦に積み上げる「3次元積層技術」により、配線長を100分の1の数十マイクロメートル(マイクロは100万分の1)にまで短縮し、劇的な高速化と省エネルギー化を実現する。さらに、電気信号の限界を超えるため、チップ内の通信を光に置き換える「光配線」への期待も大きい。

特定のAI処理に特化した専用装置や、入力データに応じて動作を賢く省く技術など、AIの挙動に即した最適設計の研究開発も活発だ。とりわけ電力制約の厳しいスマートフォンやロボットといったエッジ分野では、データ移動そのものを排除しメモリー内で演算を行う「インメモリー・コンピューティング」が注目されている。これらを支える新材料や、新たなデバイス構造の探求も続いている。

一方で、新デバイスに向けた材料提案から、回路設計、信頼性予測、製造プロセスの最適化まで、研究開発のあらゆる段階でAIの活用が進んでいる。ここで得られた膨大な資産は、他の分野の知見とともに「科学統合AI」へと集約され、AIのさらなる進化の原動力ともなる。

多分野で展開
こうしたマテリアルとAIの共進化は、AIチップの枠を超え、環境・エネルギー、インフラ、ロボットなど、幅広い領域でAIが駆動する研究開発を加速させている。マテリアルとAIが互いを高め合う好循環は、あらゆる知見が統合された新しい世界の第一歩となるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2026年5月1日号に掲載されたものです。

<執筆者>
大淵 真理 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。民間会社研究所で材料・デバイスシミュレーションなどの研究開発に従事。24年から現職。ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(336)AI for Scienceの展望(5)マテリアルと「共進化」(外部リンク)