第334回「AI for Scienceの展望③ 個々の高度化要素つなぐ」
AI(人工知能)を研究に活用するAI for Science(AI4S)の動きが広がっている。だがデータやモデルが個別に発展するだけでは研究は加速しない。車でいえば、タイヤやハンドルなど部品が優れていても、それだけでは走り出せないのと同じである。AIの構成要素を結び付ける設計があって初めてAI4Sのエンジンがかかる。
多様な進展
研究現場ではAI4Sの導入が着実に進んでいる。ただし、その進展の方向や速さは分野ごとに異なる。論文要約や仮説候補の提示、実験計画の補助など、研究者支援にAIを活用する分野がある一方、研究計画から実験まで一貫してAIが判断し実行する「自律的研究」が進む分野もある。材料や創薬のように現実世界の制約を受ける研究や、計算機科学のように検証作業の多くが計算機内で完結する研究など、研究環境によっても進展の度合いはさまざまだ。
課題は、こうした異なる進み方をする研究をいかに接続させるかにある。計算基盤、データ、モデル、実験装置、それを扱う人材といった各要素は個々に高度化しているが、それらが連携しなければ科学全体の力にはなりにくい。分散する要素をつなぎ、融合する設計が求められる。
その際に重要となるのが、データ共有のルールや運用体制といったガバナンスである。接続の仕組みを整えることで、AI4Sは分野を横断して新しい科学の創出を促す基盤として機能する。
接続して動かす
基盤設計の例として、日本では国立情報学研究所のリサーチデータクラウドがある。研究データの管理・公開・検索を統合し、認証基盤と連動させることで、大学や研究機関に分散するデータ資源を横断的に利用できる環境の整備を進めている。また材料分野では、先端研究設備の共用ネットワークなどを通じて創出されたデータを、物質・材料研究機構の拠点に集約し、構造化して再利用する取り組みが進む。
欧州でも、欧州オープンサイエンスクラウドを中心に、各国データ基盤を接続し、データ共有の国際的な指針「FAIR原則」に基づいてデータ整備とAI活用を一体で進めている。
重要なのは、ただデータ量を増やすことではない。AIを単なる道具にとどめず、研究を動かすエンジンとするには、データの取得段階から品質や条件を記録し、利用範囲を明確にする設計までを視野に入れる必要がある。また、データやモデルなどを横断的に使いこなし、研究の方向を示す人材の育成も不可欠だ。

※本記事は 日刊工業新聞2026年4月17日号に掲載されたものです。
<執筆者>
杉村 佳織 CRDSフェロー(横断・融合グループ)
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士課程修了。企業でのAI研究開発を経て24年10月からJSTに出向。AI時代の研究開発戦略立案を担当。博士(理学)。
<日刊工業新聞 電子版>
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