2026年4月10日

第333回「AI for Scienceの展望② メタ視点 研究力再興のカギ」

AI(人工知能)は科学研究の効率化や自律化を加速させるだけでなく、科学そのものの姿を変えようとしている。探索空間を広げ人間の認知的限界を超えることで、新たな「科学」像を生み出しつつある。この変化は、科学とは何か、そして今後、科学者の役割はどのように再定義されるのかという根本的な問いを突き付けている。

加速は本当か?
では、AIは本当に科学を加速させているのだろうか。近年、科学分野で急速に普及する一方、問題も顕在化している。結果は得られても、その理由やメカニズムの理解が置き去りにされる「理解のショートカット」や、データが豊富でAIと相性の良いテーマに個人の研究が集中し、科学集団全体としての多様性が失われる「個人と集団のトレードオフ」、さらにAIが執筆した質の低い論文の氾濫、査読を有利に進めるための隠しプロンプト、AI生成データの不正利用なども指摘されている。

しかしこれらの課題は見方を変えれば、AIの「科学的知能」を高めるための重要な手がかりでもある。AIと科学の間にどのようなギャップがあるのか、科学研究にAIを活用する「AI for Science」をメタ的に分析することが、科学のさらなる発展につながる。

2つの取り組み
こうした考えを先行して政策として打ち出したのが英国である。英国政府は2025年、科学の営みを分析する「メタサイエンス」への資金提供を大幅に増額し、新たな研究公募で、「AI for Scienceの科学」を主要テーマの一つに位置付けた。

今後の日本においても、次の二つの取り組みが重要だ。一つは、さまざまな分野の研究者が集うメタサイエンスの場を開き、AIと科学の関係について対話と分析を積み重ねることである。AIによって科学の何が加速し減速するのか、探究する研究が求められる。また科学の知見がAIの進化にどう貢献するかといった、逆向きの探究も興味深い。科学的創造性を有し、自ら仮説を立て、実験し、論文を書く「AI科学者」の開発が進めば、究極的には人間と同等かそれ以上に高度な知能を持つ「汎用人工知能(AGI)」の実現にも近づくと期待される。

もう一つは、AI適用の拡大である。科学研究における実験や予測にとどまらず、異分野融合の創出や産学のシーズとニーズの出会いなど、新たな知の組み合わせを見いだす主体としても、AIの力は底知れない。

メタな視点こそが、日本の研究力の再興を導くカギとなる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年4月10日号に掲載されたものです。

<執筆者>
阪口 幸駿 CRDSフェロー(横断・融合グループ)

同志社大学大学院脳科学研究科博士課程修了。同志社大学で特別任用助教、府省で事務官を経て24年から現職。分野横断的な検討が必要なテーマの調査を担当。博士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(333)AI for Scienceの展望(2)メタ視点、研究力再興のカギ(外部リンク)