第332回「AI for Scienceの展望① 科学の知見循環、実装加速」
科学研究におけるAI(人工知能)活用が広がっている。文章や画像を生み出す生成AIの普及も後押しとなり、「AIを使う段階」から「AIと共に進む段階」に入った。科学研究にAIを活用する「AI for Science(AI4S)」は、各国の技術覇権競争の中核にもなりつつある。
研究の着想拡大
人類の科学は経験科学、理論科学、計算科学、データ駆動科学という流れを経て発展してきたとされる。近年は文献調査、仮説設定、実験・検証、さらには知の再利用まで、研究プロセスの各段階でAIの活用が進む。
AIは単なる作業効率化の道具にとどまらない。広大な探索空間から有望な仮説を抽出し、研究者のアイデアの創出を支援する。さらに実験や解析などの研究アクションを迅速化し、人が見落としがちな相関やパターンを示すことで、研究の着想そのものを広げる役割も担い始めている。
こうして得られた研究成果やデータは、今度はAIモデルの高度化にも生かされる。すなわち、AIを研究に用いる流れ(AI→各分野)と、科学の知見がAIを進化させる流れ(各分野→AI)が循環する構造となる。
各国で研究進む
この循環が機能すれば、科学的発見の速度が高まり、知の波及や産業への社会実装も加速すると期待できる。各国もこの可能性に注目し、科学分野でのAI活用を政策として取り入れ始めている。
米国では、政府がAIを使った科学研究を強く後押ししている。中心となるのは、エネルギー省が打ち出した「Genesis Mission」という構想だ。国が保有する膨大な研究データやスーパーコンピューター、国立研究所や大学、企業の力を結集し、AIによって新しい発見をより速く生み出す取り組みである。エネルギーや半導体など将来の産業や安全保障に直結する分野が重点対象だ。併せて、研究者が高性能計算機やデータを共有できる仕組み(NAIRR)や、研究施設で生まれる大量のデータをAIが使いやすい形に整える取り組み(FASST)も進めている。
欧州連合も、加盟国に分散する研究設備やデータを接続し、AIが各地のデータを横断的に学習・分析できる環境を整える戦略を進める。中国や韓国も、国家計画としてAIと科学の融合を掲げる。各国はデータ、計算環境、人材を結び付けたAI研究基盤の構築を急ぎ、研究力の強化を競っている。日本でも、こうしたAI研究基盤整備が重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2026年4月3日号に掲載されたものです。
<執筆者>
杉村 佳織 CRDSフェロー(横断・融合グループ)
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士課程修了。企業でのAI研究開発を経て24年10月からJSTに出向。AI時代の研究開発戦略立案を担当。博士(理学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(332)AI for Scienceの展望(1)科学の知見循環、実装加速(外部リンク)