2026年3月20日

第330回「動物実験代替へ新手法」

医薬品などヒトに投与される物質の安全性や有効性の評価が、従来の動物実験に依存した手法から「新規アプローチ法(NAMs)」への歴史的な転換期を迎えている。生体模倣システムやAI(人工知能)などを組み合わせ、ヒトへの安全性や有効性を評価する新手法が、さまざまな産業に広がりつつある。

医薬向け期待
ここでいうNAMsとは、培養細胞から作るミニ臓器(オルガノイド)や臓器チップなどの生体模倣システムを用いたin vitro試験、AIや数理モデルを使いコンピューター上で行うin silico試験、試験管内で対象物質と人工たんぱく質の反応性を評価するin chemico試験などを組み合わせた方法である。従来の動物実験には、結果が必ずしもヒトに合致しない「種差の壁」が課題だった。これに対しNAMsは、ヒトの生理応答を高度に再現できるため、医薬品などのハイリスクな研究開発の成功確率向上が期待される次世代の評価法として注目されている。加えて、世界的な潮流となっている動物実験の「3Rs」(削減・苦痛軽減・代替)の推進にも資する。

多分野に波及
最も先行したのは化粧品分野である。2013年に欧州連合が動物実験を実施した化粧品および原料の販売を禁止したことを契機に、多くの化粧品メーカーは動物実験廃止を宣言し、代替法の開発が加速した。現在、皮膚刺激性や眼粘膜刺激性などの局所毒性評価では実用化が進む一方、全身毒性の評価はなお探索段階にある。

こうした評価法を見直す動きは、医薬品、医療機器、食品、農薬、化成品の分野にも波及している。特に医薬品分野では、米国で22年に「FDA近代化法2.0」が成立し、承認申請時の動物実験の義務付けが撤廃された。現在はNAMs実装をさらに進める法整備の審議が続いており、世界各国のアカデミアや産業界でも新手法の研究開発が活発化している。

食品分野では、香料や添加物の評価での利用が期待される。ただし、リスク管理のため1日許容摂取量などの基準値設定には高い定量性が求められることから、導入のハードルは高い。

NAMsは現段階で全ての動物実験を代替する水準には達しておらず、萌芽的な段階にある。今後は、アカデミアにおける最先端技術の開発と産業界における実装を一体的に進める体制を構築するとともに、国際的な標準化や規制調和の推進が求められる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年3月20日号に掲載されたものです。

<執筆者>
丸 智香子 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科修士課程修了。22年入職、戦略的創造研究推進事業での業務に従事し、25年から現職。ライフサイエンス関連の研究領域の調査と戦略立案を担当。修士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(330)動物実験代替へ新手法(外部リンク)