第329回「研究人材獲得に各国意欲」
研究人材は、科学技術・イノベーション力の源泉となる不可欠な基盤だ。近年、国際情勢の不確実性が高まる中、2025年の米国新政権による政策見直しを契機に、諸外国・地域が研究人材の獲得に意欲を示している。
米の政策見直し
米国では25年1月の新政権発足に伴い、科学技術・イノベーション関連政策の大幅な見直しが進められている。研究開発予算総額の削減、特定分野や大学への資金配分の縮小や一時凍結に加え、技術者向け就労ビザの制限拡大などが打ち出された。一方、議会による予算編成過程では削減幅が縮小する傾向も見られるなど、状況は流動的だ。一連の動向は、結果として「米国からの頭脳流出」や「科学の自律性への懸念」をめぐる国際的な議論を呼び、他国・地域における政策検討を促す一因となっている。
各国が施策強化
各国・地域では、自国の産業競争力の優位性確保や、戦略上重要な技術分野への注力を目的として、研究人材の誘致や研究環境整備に関する政策強化の動きが鮮明だ。
欧州連合は、研究者の自由な循環を促す「欧州研究圏」の枠組みに関する予算強化や法整備を行う。例えば27年までに5億ユーロを投じ研究者の長期雇用を促し、欧州での研究キャリアの魅力向上を図るプロジェクトなどが進められている。これを受け、フランスやドイツは特に重要・戦略技術分野を対象とした予算追加や人材誘致策の新設を打ち出した。ドイツは25年12月、第1弾として国外から166人の卓越した研究者の招聘を発表するなど、具体的な成果も示されている。
英国や中国も独自の政策を展開している。英国は世界トップ層の研究者の誘致・定着を目指す、政府組織の設置や基金の創設を進めている。中国は海外拠点の自国籍研究者の帰還支援を継続しつつ、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の優秀な若手研究人材を対象としたビザを新設するなど、人材獲得を強化している。
日本も国際頭脳循環を強化するため、25年6月に新たなイニシアチブを発表した。これは政府が重点的に推進する政策枠組みであり、国際共同研究の推進拡大に加え、在外日本人を含む海外研究者を招聘する新施策の実施も進んでいる。
25年に活発化した各国の政策が、国際的な研究人材の移動にどのように影響するかは未知数だ。今後は、諸外国の施策の実効性を注視するとともに、日本が国際的な人材獲得競争の中で選ばれる研究環境をいかに構築していくかが問われる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年3月13日号に掲載されたものです。
<執筆者>
山田 愛 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
東京大学大学院工学研究科博士後期課程単位取得満期退学。国立大学の学術専門職員などを経て、24年10月から現職。人材施策などSTI政策に関する調査を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(329)研究人材獲得に各国意欲(外部リンク)