2026年2月20日

第326回「気候対策に共通の物差し」

枠組みを維持
パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前から2℃未満に、可能なら1.5℃以内に抑えることを目標とし、締約国が温室効果ガス(GHG)の削減目標を定めて、定期的に更新していく国際枠組みである。しかし近年、米国の協定離脱に象徴されるように、締約国の間で政策への温度差が広がり、削減に向けた国際的な合意形成は難しさを増している。

こうした中、2025年11月、ブラジル・ベレンで国連気候変動会議(COP)が開かれた。COPは毎年、温暖化対策の合意形成を図る政治的・外交的な国際交渉の場であり、30回目の開催となる今回は、パリ協定に基づき23年に行われた国際的進捗評価(グローバル・ストックテイク)を受け、次期削減目標に向けた方向性を示すことが期待されていた。しかし、国際協調の揺らぎを背景に議論は進まず、協定枠組み維持と継続が交渉全体を通じて最大の成果と受け止められた。

日本の貢献
一方で、実務面では前進がみられ、GHGの削減や対策の現状を各種の測定により可視化し、透明性を高める方針が明確になった。気候変動に適応し、被害を軽減する取り組みの進捗を測る「ベレン適応指標」を採択し、災害リスクや水資源、損失・被害などを定量的に把握する枠組みを導入した。

こうした流れの中で重要性を増しているのが、信頼性の高い観測データである。このような透明性に関する枠組みの強化は、各国の自己申告を補完する実測データの活用を前提としており、衛星観測はその有力な手段と位置付けられる。日本は、GHG・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」で二酸化炭素(CO2)やメタンを、陸域観測技術衛星「ALOS」で森林減少や災害被害を、水循環変動観測衛星「GCOM-W」で水資源や異常気象リスクを、一貫した手法で把握している。

日本の観測技術の強みは、特定国の主張に左右されず、同一手法で長期かつ継続的にデータを取得できる点にある。これは先進国・途上国を問わず受け入れやすい「共通の物差し」となり、国際的な透明性と公平性を支える。客観的な実測データは、交渉の政治化を抑え、科学的根拠に基づく合意形成を後押しする。

COP30は、国際協調の難しさを示す一方で、気候対策を前に進めるには「測定」と「透明性」が不可欠であることをあらためて浮き彫りにした。その実現に向け、日本の観測技術が果たす役割は、今後さらに重要性を増していくだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2026年2月20日号に掲載されたものです。

<執筆者>
矢ヶ部 信吾 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京工業大学大学院(現東京科学大)総合理工学研究科修士課程修了。民間のプラントエンジニアリング会社にて設計・施工管理業務を経て、24年から現職。環境・エネルギー関連分野の俯瞰調査と戦略立案を担当。修士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(326)気候対策に共通の物差し(外部リンク)