2026年2月13日

第325回「数理科学で新価値創造」

数理科学は数学を基礎とし、現実世界の理解に数学を応用する分野である。数学には「抽象性」や「普遍性」があり、数理科学の知見は時代を超えて活用できる。数理科学を活用することで現代のデータ駆動社会が実現しているともいえる。今後も複雑な現象の理解や社会課題の解決、新たな価値創造に数理科学の活用は欠かせない。

知見活用広がる
数理科学の知見が時代を超えて活用されてきた代表例が暗号技術である。インターネット上での通信で広く使われている公開鍵暗号方式であるRSA暗号は、17世紀に築かれたフェルマーの小定理に基づき、整数の素因数分解が極めて困難である点を安全性の根拠としている。古典的な数学の知見が、現代の情報社会を支えている。

近年は、データを解析することで知見を得るデータ駆動型研究への展開も進む。データの「形」に着目した位相的データ解析は、代数学に支えられた理論であり、情報科学や材料科学、生物学などで活用されている。ガラスやたんぱく質のような複雑な原子構造を持つ物質の理解に役立ち、新材料開発や創薬への貢献が期待される。さらに、AI(人工知能)技術の背後にも、最適化理論や確率論といった数理科学が存在する。

臨床医学への応用にも広がりを見せている。数理モデリングを用いて発疹の形状からじんましんの体内メカニズムを解明した研究や、血流シミュレーションによって大動脈瘤の発症機序を理解しようとする研究などが報告されている。

分野を橋渡し
数理科学には、演えき的思考を支える「論理性」が備わっている。いったん証明された成果は、時代を超えて利用できる。また現象が異なっていても、数理的な仮定が共通であれば同じ枠組みで扱えるため、異なる現象の間を橋渡しする力を持つ。

この特長は、AIに代表されるデータ駆動型の帰納的手法や、その成果を人間が理解し適切に活用する上でも重要な役割を果たす。例えば、AIの処理過程を人間が理解できる形で説明するホワイトボックス化や、虚偽を含む情報を生成してしまうハルシネーションへの対策が考えられる。

数理科学はデータ解析の結果に意味を与え、他分野への展開を可能にする基盤であるといえる。それゆえ、数理科学とさまざまな分野を掛け合わせる「数理×○○」は、情報科学などの新しい価値の創造が期待できる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年2月13日号に掲載されたものです。

<執筆者>
吉脇 理雄 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

大学院理学研究科後期博士課程修了。代数学や数学に立脚したデータ解析などの研究開発に従事。20年から現職。数理科学分野の研究開発戦略立案担当。東北大学数理科学共創社会センター准教授。博士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(325)数理科学で新価値創造(外部リンク)