2026年1月30日

第323回「革新期す「バイオ×材料」」

「3つの柱」
持続可能な社会の実現に向け、生物の力を活用する「バイオものづくり」への注目が高まっている。しかし、バイオマスの利用拡大や新機能の創出には従来のバイオ技術の延長だけでは限界がある。そこで突破口として期待されているのが、材料科学との融合である。

バイオ技術と材料科学の融合領域は現在、三つの柱を軸に進展している。

第1は「バイオマス利用」である。食料と競合しない稲わらや食品残渣など、非可食バイオマスを利用する流れが加速している。植物由来で軽量かつ高強度なセルロースナノファイバー(CNF)や、日本の固有種である杉から作られる高性能プラスチック原料の改質リグニンなど、革新的な材料が生み出されている。

第2は「生体機能性材料」である。たんぱく質や細胞が備える特有の機能を材料に組み込み、微小な分子から多細胞レベルまでの人工的な改変や構造化が進んでいる。例えば、酵素を内部に組み込むことで、使用時は安定性を保ちつつ、環境中に流出すると分解が始まる生分解性プラスチックなど、従来にはない動的機能を備えた新材料が登場している。

第3は「バイオプロセス」である。微生物による物質生産(発酵)の効率化はバイオものづくりにおける量産化の要であり、発酵環境をリアルタイムで監視、分析、制御する技術など材料科学の知見が不可欠となっている。

こうした技術潮流は政策とも連動し、材料政策の中にバイオ技術との接続を組み込む動きが広がっている。

国も重点支援
日本では、バイオエコノミー戦略やグリーンイノベーション基金事業、革新的GX(グリーン・トランスフォーメーション)技術創出事業などが行われてきた。さらに2025年改訂の「マテリアル革新力強化戦略」では、温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量を均衡させるネット・ゼロや、循環型社会の実現に資するマテリアルが重点分野に位置付けられた。バイオマテリアルもAI(人工知能)を活用するデータ駆動型研究開発の対象として明記された。

米国でも「国家バイオ技術・バイオ製造イニシアチブ」による研究開発・製造基盤の強化と、「マテリアル・ゲノム・イニシアチブ」のデータ駆動型手法が両輪となり、バイオ由来材料の開発が支援されている。

バイオと材料科学の融合は脱化石資源と循環型社会の実現に加え、生物機能を生かした製品・材料の高付加価値化への道を開く。これこそが、未来の産業競争力と持続可能性を支える重要なカギとなる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年1月30日号に掲載されたものです。

<執筆者>
鈴井 伸郎 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院農学生命科学研究科修了。量子科学技術研究開発機構にて放射線イメージングの技術開発に従事後、24年から現職。ナノテク・材料分野の俯瞰や研究開発戦略立案を担当。博士(農学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(323)革新期す「バイオ×材料」(外部リンク)