2026年1月23日

第322回「科技政策 予測・実験、機敏に改善」

国際関係の変化や技術革新の加速により、科学技術・イノベーション政策をめぐっては、将来の見通しや前提条件が短期間で揺らぐ不確実性が一段と高まっている。こうした環境で、政府が科学技術を推進し社会課題を解決していくには、政策を実行しながら検証し、機敏に改善していくことが重要だ。

状況変化に対応
経済協力開発機構(OECD)は隔年で科学技術・イノベーション政策の国際動向をまとめた報告書『OECD 科学技術・イノベーションアウトルック』を発行している。2025年10月の最新版では、国際関係の緊張に伴う経済安全保障上の懸念と国際協力の両立など、各国の取り組みが整理されている。

報告書が強調するのは、政府が先見性を持ち、変化に機敏に対応すべきだという点である。社会や技術の将来を見通しつつ、状況の変化に応じて政策や制度的枠組みを試行して、効果検証を素早く行う必要性を指摘している。

具体的には、単一の将来像に固執せず、未来予測を通じて潜在的な政策課題を特定すること(表①)や、複数の政策シナリオを検討すること(表②)など、機敏な「政策のイノベーション」を支える重要な6項目を特定している。これに照らすと、日本では、急速な変化に対応する新たな政策アプローチの試行的導入(表④)と、効果を評価しながら改善していく視点(表⑤)が不足している。予期せぬ事態に機敏に対応するには、政策を小規模に導入し、効果の検証を通じて拡大や廃止の判断を短期的に繰り返すことが欠かせない。

先行事例を学ぶ
こうした取り組みの一例として、諸外国の「政策イノベーションラボ」が挙げられる。例えばスペインでは、中小企業のデジタル化推進の支援規模を見極めるため、支援規模の異なるグループに企業を割り当て、効果を比較した。その結果、支援規模を拡大しても効果は頭打ちになることが確認され、追加的支援は不要と判断された。この事例のように、実験的に導入した施策も効果が乏しければ中止し、機敏に改善や変更をすることが重要である。

一方で、小規模な実験結果を安易に一般化する危険性や、資金の制約、高度な専門性を持つ職員の確保などの課題もある。導入に際しては、先行事例をよく学ぶ必要があるだろう。

日本でも実証実験を活用して規制の見直しにつなげる「規制のサンドボックス制度」など前例はある。今後はより幅広い科学技術・イノベーション政策においても、実験と検証を通じた機敏な対応を試みていくべきだ。

※本記事は 日刊工業新聞2026年1月23日号に掲載されたものです。

<執筆者>
菊地 乃依瑠 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

政策研究大学院大学博士課程在学中。非営利団体職員や大学職員として科学技術分野の取材、広報、研究支援業務に従事後、22年より現職。研究開発評価やメタサイエンスに関する調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(322)科技政策、予測・実験で機敏に改善(外部リンク)