第320回「異常気象、予測が重要に」
産業革命以降、世界の平均気温は上昇し続け、さまざまな影響を及ぼしている。異常気象や災害による人的・経済的被害を減らすには、科学的な予測と、それに基づき適切に対策する仕組みが重要となる。
気温上昇続く
世界気象機関(WMO)は、2024年の世界平均気温が産業革命前(1850-1900年ごろ)より1.55℃高く、観測史上最も暑かったと発表した。地球温暖化対策の国際的枠組みである2015年採択のパリ協定は、世界の平均気温上昇を2℃未満、さらに努力して1.5℃未満に抑えることを目指している。しかし、24年の記録は、この目標の達成が危機的状況にあることを示している。
異常気象は農業生産量の低下や水不足など、人的・経済的被害をもたらしている。23年の欧州熱波では、イタリア南部やシチリア島を中心に熱中症や脱水症状の患者が急増し、病院の救急部門は逼迫した。この事例は、異常気象への対応において、迅速な情報分析と発信が重要であることも浮き彫りにした。一方、異常気象の科学的評価には膨大なデータ解析と気候モデル計算が必要で、結果が得られるまで数週間から数カ月を要する点が課題とされてきた。
より速く正確に
こうした課題への対応として近年注目されているのが、現実空間で収集したデータをサイバー空間で再現する「デジタルツイン」である。時々刻々と変化する気象現象をリアルタイムで再現することで、予測と現状の差異を即座に把握し、分析や対応に反映できるようになってきた。AI(人工知能)解析や衛星観測など技術の進展で実現した統合予測基盤が、この仕組みを支えている。
例えば、日本と欧州が協力して開発し、24年に打ち上げた地球観測衛星「EarthCARE」は、雲の動きを立体的に捉え、雲やエアロゾル、放射の関係を同時に観測する。この技術で、気候モデルの不確かな部分を直接検証できるようになってきた。また、AIを活用した機械学習技術により、雲や乱流など計算に時間がかかる現象を高速に模倣できるようになりつつある。
こうした進化により、予測を「より正確に、より速く」行うことが可能となり、異常気象時に自治体が住民への注意喚起の必要性を判断するなど、被害を未然に防ぐための対策につながる。異常気象が常態化する時代において、科学技術によって予測の精度を高め、それを社会で活用する仕組みづくりが一層求められている。

※本記事は 日刊工業新聞2026年1月9日号に掲載されたものです。
<執筆者>
幡野 尚宏 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)
防衛大学校理工学研究科前期課程修了。防衛装備品に関する研究開発などに従事。14年よりJSTにて主に研究開発支援業務に携わり、25年4月より現職。環境・エネルギー関連分野の調査・分析等を担当。修士(工学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(320)異常気象、予測が重要に(外部リンク)