2025年12月26日

第319回「産業育成フロー ハード・ソフト充実」

各地に支援施設
アカデミアの研究成果を社会に還元し、社会的・経済的なイノベーションを起こすためには、産学官など多様なプレーヤーが連携する必要がある。ただし、研究から開発、そして事業化へと進む際、それぞれの間には「魔の川」や「死の谷」と呼ばれる難所が待ち構えている。これらの難所を乗り越えてイノベーションを創出するため、政府は多方面から支援を実施してきた。そのうちの一つが、研究開発や事業を育てるインキュベーション施設である。

事業化を見据えて研究開発を進める際、それを支援する専門人材や実験室などを提供するインキュベーション施設を活用することも多い。科学技術と産業政策の歴史をひも解くと、古くは1960年代以降の研究学園都市やテクノポリスに始まり、さらに2000年代以降の科学技術基本計画や日本再興戦略、国家戦略特区制度、スタートアップ育成5か年計画などによって各地で産学官共創の場となる産業クラスターが急増し、それに伴い全国にインキュベーション施設が設立されてきた。

バイオ・創薬分野に注目すると、近年は産(民間)が主体となって産業クラスターを形成し、イノベーションを起こそうとする挑戦がよく見られる。中でも、土地や施設を扱う不動産企業の参入が目立つ。例えば三井不動産は、多数の製薬企業が本社を構える日本橋にベンチャーキャピタル(VC)と連携してインキュベーション施設を提供しているなど、主に関東圏に多くの施設を有する。21年には、三菱地所が東京医科歯科大学(現東京科学大学)と共同で施設を開所した。さらに26年、福岡地所が九州大学馬出病院キャンパス内に施設を開業する。

地方でも活発
イノベーション創出の一翼を担うインキュベーション施設は、主体が官から産に広がり、大都市のみならず地方都市や大学での取り組みも進んでいる。最近では、実験室の管理や事業化推進プログラムの提供など、スタートアップのためのサポートを経験豊富なVCやアクセラレーターが担うケースも増え、施設内における支援も充実してきた。インキュベーション施設の数が増えてハード面の支援が強化されてきたことに加え、ソフト面の支援の質もより高まり、地方都市での産業振興、さらには日本再興・イノベーションにつながることを期待する。

※本記事は 日刊工業新聞2025年12月26日号に掲載されたものです。

<執筆者>
柴田 浩孝 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科修士修了。産学官をリボルビングドアで回り、バイオ・ライフサイエンス分野の研究開発の事業推進や動向調査を担当。24年より現職。新潟薬科大学客員教授。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(319)産業育成フロー、ハード・ソフト充実(外部リンク)