2025年12月19日

第318回「有機フッ素系材料新時代へ」

EUが規制案
有機フッ素系材料は、化学的安定性(薬品で壊れにくい)、低誘電率(電気信号のロスが少ない)、低表面エネルギー(水や油をはじきやすい)などの特性を持ち、撥水剤や消火剤、半導体製造などに幅広く使用されている。欧州連合(EU)は2023年、種類が多く特定用途で重要な役割を果たしている有機フッ素化合物(PFAS)の包括的規制案を打ち出した。成立すれば世界の社会・経済に影響が及ぶ可能性があり、代替新材料の研究開発の重要性が高まっている。

PFASの一部は環境中での残留性や健康への影響に対する懸念から、日本を含め多くの国で規制が進められてきた。これに対しEUの規制案は「人や環境に重大で不可逆な影響を与える可能性がある場合、科学的な因果関係が未証明でも事前に対策を講じる」という予防原則の考え方に基づき、すでに影響が明らかになっているものだけでなく、PFAS全体を対象としている。

PFASは次の①―③に区分できる。①国際条約ですでに製造・輸入の規制対象となっているフッ素系界面活性剤3種。22年ごろから水質汚染で話題になっている物質を含む。②国際条約での議論を元に規制が検討されている化学物質。長鎖界面活性剤など数十種。③その他のフッ素系ポリマーなど1万種以上。

第1回の意見募集では規制案に対して5000件以上の意見が寄せられた。これを受けて欧州化学品庁の委員会で対応が検討され、25年8月に公表された改訂案では、必要不可欠な用途については厳格な管理のもとで使用継続を容認する考え方が示された。

新たに分子設計
③の区分には、半導体プロセス、リチウムイオン電池(LiB)、燃料電池、第5世代通信(5G)など最先端用途で重要な役割を担っている材料が多く含まれる。今回の規制改訂案により当面は使用継続を容認される可能性が出てきたが、長期的には不透明さが残る。

PFASはフッ素原子に由来する特性を利用している。今後はPFASのリサイクルやリユースの技術構築に加え、非フッ素系代替材料の開発が求められるが、ほかの材料で同様の性能を実現するのは容易ではないと予想される。そのため抜本的対応を行う必要があり、機能発現メカニズムに立ち返った分子設計や分子集合体の構造制御など、科学的アプローチを産学連携して進めることが重要になる。

※本記事は 日刊工業新聞2025年12月19日号に掲載されたものです。

<執筆者>
福井 弘行 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。総合化学メーカーにて、触媒、機能性材料などの研究開発に従事後、20年より現職。ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
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