2025年11月21日

第314回「独、AI領域の起業支援」

ドイツではAI(人工知能)領域に特化して起業を支援するプログラムがある。パイロット版の実施で成果を上げ、全国展開することになった支援策は注目に値する。

ユニコーン33件
ドイツスタートアップ協会によると、2024年に約3000社のスタートアップが誕生した。23年と比較して11%増、25年も上半期だけで前年同期比9%増となり、起業活動が活発化している。このうちソフトウエア開発などデジタル分野のサービスや製品に関係するものが約6割を占め、特に既存産業とスタートアップの技術開発における連携は、経済全体に好影響を与えていると評価されている。米CBインサイトのデータ(25年)では、ドイツのユニコーン数は33件で、日本の8社を上回っている。

連邦政府の「スタートアップ戦略」(22年)には、スタートアップ・エコシステムの強化と支援を政府全体の中心的な目標の一つと位置付け、大学における起業活動を構造的に定着させる取り組みを推進することなどが盛り込まれている。

日本に応用期待
ドイツ政府による大学発スタートアップ支援は、1998年に始まったEXISTプログラムを主としている。この枠組みで2021年から5年間、国内の4拠点を選定し、研究者、起業チーム、地域産業をマッチングしAI領域に特化した起業支援のモデルプロジェクトが実施された。

企業からのスピンアウトも巻き込んで専門知識とリソースのハブ化を試みたハンブルクのAI HUB、デジタル分野に強みを持ち産学連携が盛んなダルムシュタット工科大学を拠点に起業支援のモデル化を進めたAI Startup Rising、国内の起業数トップを誇るベルリンでアプリケーション開発の有望なアイデアの発掘と事業加速で成果を上げたK.I.E.Z、産業拠点ミュンヘンで機械や医療デバイスのプロトタイプ製作支援に実績のあるAI Munichである。まもなく助成が終了する同プロジェクトは、ベルリンとミュンヘンの拠点を統合してソフトとハードの両面を支援するAI Nationとして生まれ変わり、起業支援を続ける。

大学発スタートアップに対して持続的な発展を目指した試行錯誤が続く日本でも、早急な取り組みが求められるAI領域において、新産業創出に向け革新的な取り組みを始めたドイツの事例は有益な学びになるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2025年11月21日号に掲載されたものです。

<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

00年にミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャーでウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。14年から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(314)独、AI領域の起業支援(外部リンク)