2025年9月5日

第303回「バイオ生産 初期製造体制が重要」

人材育成を推進
「バイオ生産」とは微生物などの生物の能力を活用し、有用物質を生み出すことをいう。生物の生体反応を利用することで常温常圧の環境で物質生産が可能となり、二酸化炭素(CO2)排出量の削減などが期待できる。そのため、世界中で研究開発投資が活発である。これらの研究成果を速やかに社会実装につなげるためには医薬品製造などと同様に、研究開発と製造の中間に位置する初期製造を担う体制の整備が重要である。

バイオ生産はフラスコなどを用いた培養で優良生産菌を選抜した後、ラボの発酵槽での検討を経て、さらにスケールを拡大していく。その培養液から生産物を精製するという流れが一般的である。培養条件の最適化は、いまだに技術者の経験とスキルに依存することが多い。近年ではAI(人工知能)を活用した培養制御技術など、自動化と省力化を目指した技術開発が進められているが、人材を育成し、異業種からの参入を促進するため、培養技術の教育支援体制の構築が求められている。

そのような中、わが国では関西圏と関東圏にそれぞれバイオ生産の研究開発を支援する拠点整備が進む。例えば、大阪工業大学は充実した培養設備を導入し、座学と実習を組み合わせた教育プログラムを開発した。これまでに企業などから450人以上の技術者を集め、この分野の人材育成に大いに貢献している。

知見共有に期待
今後は培養液から数段階の操作を経て生産物を取得する、精製工程に関する教育や支援の充実が求められている。精製工程は品質と製造コストを左右するため極めて重要であるが、大学で精製をトータルで学ぶことはほぼない。人材交流などを通じて、企業に蓄積するノウハウを大学が吸収する体制を構築することを期待する。

さらにバイオ生産支援拠点の機能を拡張し、さまざまな生産物をグラム単位からキログラム単位で取得できる能力を充実させることが必要である。これにより企業における製品開発の検討が迅速に進むと同時に、大きなスケールでの培養の再現性や精製収率など、量産化に向けた課題を明確にすることができる。このような機能を持った機関として欧州のコンソーシアムが設立したバイオベース・パイロットプラント(ベルギー)などがあり、参考にすべきであろう。

将来的には、初期製造で見いだされた課題が上流の研究開発にフィードバックされるループを構築することにより、バイオ生産の研究開発の加速を期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2025年9月5日号に掲載されたものです。

<執筆者>
小泉 聡司 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。化学メーカーにて新規事業の研究開発に従事。20年より現職。ライフサイエンス・生物生産分野の俯瞰調査・政策提言の作成に従事。博士(農学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(303)バイオ生産 初期製造体制が重要(外部リンク)