2025年6月20日

第293回「研究基盤のエコシステム形成① 機器産業育成、科学支える」

日本の研究力低下が指摘されて久しい。ここには研究予算、大学の基盤的経費、研究人材、研究支援体制など、複合的な要因が絡んでいる。さらに、研究活動を支える基盤として、研究機器の開発力やその利用環境の整備・高度化も重要な課題である。

メーカーに依存
とりわけ自然科学分野では、研究機器の技術革新がその発展を支えてきた。新たな知を切り開く研究の初期段階では、実験や検証に使う機器がないことも多く、研究者自らがそれを設計・製作する必要がある。ノーベル賞の歴史を振り返っても、核磁気共鳴装置(NMR)や電子顕微鏡などのように、研究機器自体の発明が高く評価された例も少なくない。現代ではグローバルな研究競争の激化を背景に研究活動の効率化が進み、機器の開発は主に専業メーカーが担うことが多い。その結果、科学の営みに必要な研究基盤の整備は、研究機器産業に依存する構造となっている。

この研究機器産業は、大学や研究機関、企業などに所属する研究者を主な顧客とするため、市場規模は限定的である。それにもかかわらず、常に最先端の研究に応える革新的な機器の開発が求められる、特異なビジネスモデルを有している。また、多くの産業が科学の成果を活用する立場にあるのに対し、研究機器産業は科学そのものを支え、成果の創出に直接貢献するという独自の社会的役割を担っている。

産学官で対話を
わが国ではこれまで、研究機器に関連するさまざまな政策が展開されてきた。大学などでは、高性能な機器を研究者間で共用する仕組みも徐々に進んでいる。また、新たな機器を産学連携で開発するプログラムも実施され、一定の成果を上げてきた。しかし、これらの取り組みはまだ途に就いた段階であり、日本全体の研究力を底上げするには至っていない。

今後は、機器の開発と共用の取り組みに加え、ライフサイエンスや材料科学など各分野で実施される政策やプログラム間での情報共有と連携を強化し、相乗効果を高める基盤づくりが重要となる。そのためには、産学官の関係者が継続的に対話を重ね、より横断的で持続可能な取り組みを計画・実行することが必要であろう。その上で、研究機器や関連技術の方向性を的確に見極め、中長期的な視点で研究機器産業を育成していくことが求められる。

※本記事は 日刊工業新聞2025年6月20日号に掲載されたものです。

<執筆者>
丸山 浩平 CRDS特任フェロー

東京農工大学大学院工学研究科修了。産業機械メーカーでの研究開発、技術企画などを経て、大学でバイオ計測研究に従事。14年より早稲田大学研究戦略センター教授。17年より現職を兼務。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(293)研究基盤のエコシステム形成(1)機器産業育成、科学支える(外部リンク)