2025年6月13日

第292回「GaN半導体 急速充電で活躍」

長期の研究開発
近年、スマートフォンやノートパソコン用の小型の急速充電器に、窒化ガリウム(GaN)のパワー半導体が使われるようになってきた。GaNは発光ダイオードへの応用がよく知られているが、パワー半導体市場の主流であるシリコン(Si)よりも高速動作と高電圧動作が可能といった優れた材料特性を有し、40年ほど前から種々の研究開発が進められてきた。しかし、高品質で低コストのGaN基板や、GaNの特長を生かせるキラーアプリケーションがなかなか生まれず、最近までは無線基地局用など一部での実用化にとどまっていた。

1990年代のGaN青色発光ダイオードの実用化などにより、GaN結晶の作製技術は大きく進展した。日本では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト」(2009-19年度)、内閣府の戦略的イノベーション創造プロジェクト(SIP)「次世代パワーエレクトロニクス」(14-18年度)、文部科学省の「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発」(16-20年度)など、GaNを含むパワー半導体関係のプロジェクトや支援が長期的に推進され、結晶作製技術やデバイス技術がさらに進んだ。また、欧米などでは、1996年ごろから大量生産が可能な6インチSi基板を用いて、GaNパワー半導体の製造を低コストで請け負う企業も現れた。

小型化が魅力
GaNパワー半導体はその優れた特性から高い周波数での利用が可能なため、電源回路のコンデンサーやコイルなどの部品の小型化ができる。このため、Siが使われていた低電圧用途でも新たな価値が見いだされ、2010年ごろから小型の急速充電器やデータセンター用電源の開発などが急速に進展した。12年にはノートパソコンやスマートフォン、タブレット用に100ワットまで対応可能な給電規格(USB Power Delivery)が策定され、小型軽量で大容量な充電器のニーズへの対応が始まった。19年ごろからはGaNを用いたUSB急速充電器が実用化され、21年ごろから広く普及するようになった。

今後は、電気自動車や第6世代通信(6G)の基地局、データセンター用電源などとともに、急速充電器など生活を便利にする身近な応用に向けた研究開発のさらなる推進により、日本の技術力・産業競争力の一層の向上を期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2025年6月13日号に掲載されたものです。

<執筆者>
馬場 寿夫 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

電気通信大学大学院電気通信学研究科応用電子工学専攻修士課程修了。電機メーカー、内閣府総合科学技術会議事務局(ナノテクノロジー・材料/ものづくり技術担当)を経て、12年より現職。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(292)GaN半導体、急速充電で活躍(外部リンク)