2025年5月23日

第289回「AI政策 規制から推進へ」

AI(人工知能)技術は、利用方法によっては悪用される可能性がある上、自ら計画を立てて実行するなどの高い自律性を持つことで社会的なリスクを引き起こす恐れもある。そのため、AIガバナンス政策は各国にとって重要な課題である。

競争力に関心
生成AIの登場後、世界のAI政策は、大規模データを学習し多様なタスクに応用可能な「基盤モデル」に関する規制を含むAIガバナンス政策が中心的な課題であった。

しかし2月にフランス・パリで開催された「AIアクションサミット」では、各国がAIを積極的に推進する方向へ大きく政策転換をするきっかけが示された。

欧州では、2024年8月に公布されたAI法において、「基盤モデル」に対する規制が導入された。しかしその後、欧州全体で競争力強化政策に関心が高まり、その影響で欧州委員会は「AIアクションサミット」においてAI分野への多額の投資を発表した。さらに25年4月には、欧州がAI分野で世界的なリーダーになることを目指した「AI大陸行動計画」を発表している。

米国では、バイデン政権下の大統領令で、AI規制やガバナンス政策が推進されてきた。しかし1月に発足したトランプ政権は、就任日にこの大統領令を廃止し、AI分野での米国のリーダーシップの維持・拡大を目的とする新たなAI行動計画の策定に向け、準備を進めている。さらに同政権では、新たな科学技術政策の方向として、経済安全保障の観点を重視したAIの強力な推進を前面に打ち出している。

欧米の対立
さらに、現トランプ政権下では欧米間の対立が顕著になりつつある。特に、「AIアクションサミット」で米国のバンス副大統領が、欧州のデジタル・AIに係る規制政策を厳しく批判し、この発言は欧州に非常に大きな衝撃を与えた。

他方、欧州としても競争力強化の観点から、「AI大陸行動計画」において、AI法の手続き簡素化の方針を打ち出している。

このような国際的な動きがある中、日本でも2月末にAI法案が閣議決定され、現在国会で審議が進められている。

今後、政府がAIガバナンスを含む政策を推進するにあたり、急激に変化する世界情勢を見据えた適切な対応が求められる。

※本記事は 日刊工業新聞2025年5月23日号に掲載されたものです。

<執筆者>
市川 類 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

政策研究大学院大学博士課程(科学技術・イノベーション政策)修了。中央省庁にて技術・イノベーション政策、デジタル・AI政策に従事。23年より現職。博士(政策研究)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(289)AI政策、規制から推進へ(外部リンク)