第272回「AI時代の光デバイス 産学連携で超高速化実現」
メガDCに需要
社会の多様なニーズの下、大規模言語モデルや機械学習などの人工知能(AI)技術の進展が著しい。それに伴いデータ収集・処理の高速化が求められており、コンピューターやネットワークによって構築された仮想的空間であるサイバー空間が重要となる。
サイバー空間での大容量データ処理を担うのはメガデータセンター(DC)であり、処理能力の向上、大規模化への要請が急速に増している。その実現には、DC内のデータ通信の超高速化と大容量化が不可欠である。
しかし、これまでの電気配線は、高速化に伴う電気損失と消費電力の急増により、適用の限界に達しつつある。これに対してここ10年間、電気配線から超高速動作が特徴の光通信技術を活用した光配線への、質的な転換が進んでいる。また、光配線化は通信の高速化のみならず、低消費電力化へも貢献すると期待されている。
DCにおける光通信技術は、電気信号を光信号に変換する心臓部にあたる光デバイスがカギだ。1980年代から日本がリードしてきた、リン化インジウム(InP)系化合物半導体を用いた波長1.3マイクロメートル(マイクロは100万分の1)帯の光デバイスにより、DCの高速大容量化が図られてきた。
光配線にシフト
このInPを用いた光デバイスは、光信号の強度などを高速に変調させる役割を担っており、データを正確かつ低遅延な伝送をする上で欠かせない。しかし、今後2030年代にはメガDC内の光信号を切り替えるスイッチ装置内部において、電気配線から光配線に変わるなどのパラダイムシフトが本格的に起こると予測されており、今の光デバイス技術では高速変調の限界を迎える。
そのため、新たな変調技術と低消費電力化技術を確立することが必要である。現在、光を発生するInP系の技術に加え、シリコンの集積回路プロセス技術で光デバイスを作製するシリコンフォトニクスや、高速変調が期待できる新材料開発、そしてそれらを幅広く集積する異種材料集積プロセス技術の研究が盛んになってきている。
それぞれの材料系には一長一短があるものの、30年代に向けて、これらの技術を合わせた高性能の超高速光デバイス実現が目標となるだろう。今後、日本においてもその実現へ向けた新たな材料・デバイス研究を、産学の密な連携によって進めることが期待される。
※本記事は 日刊工業新聞2025年1月17日号に掲載されたものです。
<執筆者>
魚見 和久 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
広島大学大学院工学研究科修士課程修了。博士(工学)。電機メーカー研究所ほかで量子井戸レーザーの研究開発に従事後、23年より現職。ナノテクノロジー・材料分野の俯瞰や戦略立案を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
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