2024年12月27日

第270回「科学と政策の連携 再確認」

WSF開催
2024年11月20日から23日にかけて「世界科学フォーラム(World Science Forum, WSF)」がハンガリーのブダペストで開催された。1999年の「世界科学会議」を前身とし、03年以降隔年で開催されているWSFは、科学と社会の関係を考える世界規模のフォーラムである。

第11回目となる今回は、122カ国から1200人を超える科学者、行政関係者、産業界のリーダー、ジャーナリストなどが参加し、地球規模の危機への対応や地域課題の解決における科学の役割が議論された。

今回はテーマを「地球規模の変革期における科学と政策のインターフェース」とし、気候変動、格差の拡大、革新的技術の急速な進化など、現代社会が直面する課題の解決に必要な「科学と政策の連携」を妨げる要因が議論された。

「科学への信頼」「リスクアセスメント」「国連未来サミット(24年9月開催)での重点課題」「科学における協力・調整・ガバナンス(科学者の自由や研究セキュリティーの問題を含む)」に関する閣僚級会合やセッションおよび「科学外交」に関するイベントが行われ、活発な議論が展開された。

今後の課題
フォーラム最終日に採択された「WSF2024宣言」では、科学と政策の連携の重要性があらためて確認された。エビデンスに基づく意思決定を支援するツールとして科学が一層の役割を果たしていくことが強調される一方、科学的知識の誤用により科学への信頼が揺らいでいる現状への警鐘が鳴らされた。

宣言では、研究の公正性を保ち、社会的責任を果たす姿勢が科学への信頼回復のカギであるとされた。同時に、ジェンダーや人種による差別、ソーシャルメディア上での誹謗中傷から研究者の自由や安全性を守る必要性も示された。

さらに、研究開発投資先の大部分が先進国に偏っている状況の是正や、紛争地域における科学者の安全確保や研究インフラの再建も課題に挙げられ、これらを解決する上で外交を通じた科学技術分野の協力がより一層重要になると指摘された。

また、科学教育の強化を通じて社会の中にクリティカルシンキング(批判的思考法)を育むことや、科学ジャーナリズムを保護し科学の可能性と限界を効果的に社会に伝えることも課題に挙げられた。今後世界で、この宣言を基に具体的な取り組みをさらに進めることが期待される。

次回WSFは26年にインドネシアのジャカルタで開催予定である。

※本記事は 日刊工業新聞2024年12月27日号に掲載されたものです。

<執筆者>
加納 寛之 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。20年5月より現職。科学技術・イノベーション政策についての調査業務に従事。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(270)科学と政策の連携再確認(外部リンク)