2024年12月20日

第269回「研究評価の未来、各国で議論」

DBの存在感
研究評価には、論文の評価に使われてきた研究者同士で成果を評価する「ピアレビュー」が長らく用いられ、資金配分の際にも重要な役割を果たしている。日本でも研究資金提供機関が採択時の評価に採用しているが、関係の近い研究者を特別視する傾向や、若い研究者を過小評価してしまう可能性があるという課題もある。

一方で、2,000年代から大規模な論文データベースが整備されたことで、数値化できる定量的な指標が利用可能となり、客観的な研究評価としてその存在感が増してきた。

しかし、特に研究資金提供の採択や、研究者の採用および昇進などの評価をする場で、論文数や引用数といった定量的な指標に頼り過ぎると、論文以外の多様な成果を反映できないなどの悪影響に関する議論が起きている。著名な研究者に研究資金が過度に集中し、新たな発想による革新的な研究提案が採択されない可能性があることなどが懸念される。

責任重視の動き
その流れを受けて、欧州を中心にいくつかの団体から、研究の本質を捉えた質の高い評価を求め、ピアレビューを重視し定量的な指標は補助的な使用に留める「責任ある研究評価」を推進するべきとの声明が相次いで公表されている。

12年に出された研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)は、責任ある研究評価の推進を訴える代表的な事例だ。ここでは、質の高い研究を適切に評価するためにはピアレビューが中心に置かれるべきだとしている。日本でも東京大学などが宣言に署名し、組織内での評価の仕組みを変えつつある。

欧州では資金提供機関などのネットワークが母体となり、22年に研究評価改革を進めるための有志連合CoARAが組織された。研究の本質的な価値を評価するため、研究歴の差が反映されにくいように研究提案や履歴書の様式を変更するなど、新ツールの開発やその効果の検証が行われている。

英国でもメタサイエンス(研究手法や評価などの研究活動を対象とした研究)に関するコンソーシアムや研究開発プログラムが立ち上がり、評価のあり方に関する検討が進められている。

わが国でも日本学術会議により21年に同様の趣旨の提言がなされた。諸外国での研究評価に関する議論を把握しながら、日本の研究評価の仕組みについて俯瞰的に考え、不断の見直しをしていくことが重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2024年12月20日号に掲載されたものです。

<執筆者>
菊地 乃依瑠 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

政策研究大学院大学博士課程在学中。非営利団体職員や大学職員として科学技術分野の取材、広報、研究支援業務に従事後、22年より現職。研究開発評価や人材育成施策に関する調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(269)研究評価の未来、各国で議論(外部リンク)