2024年11月22日

第265回「科学技術・イノベーション 米新政権、優先的に推進へ」

AIなどの投資
2024年11月5日に行われた米国大統領選挙の結果、前大統領のトランプ氏が次期政権を運営することが確実となった。同氏はバイデン政権が進めてきた気候変動対策や国際協調などに批判的な姿勢を見せている。そのため、新政権においてグローバル課題に対する米国の関与が後退することを懸念する国内外の声もある。

一方で、科学技術・イノベーション政策については、個別の施策に変化はあっても、全体としては優先的に進められる事項になる可能性が高いと見られている。実際、トランプ前政権は、「未来の産業」として人工知能(AI)や量子などの先端技術への投資を強く推進した。その多くは現行の連邦省庁の研究開発プログラムの基盤となっている。

長期的な視点
米国の政策形成には多様なステークホルダーが関わっており、大統領の方針だけで全てが決まるわけではない。科学コミュニティーでは、科学技術分野における米国の優位性を維持する強力な推進策が必要との認識が高まっている。そのような認識の下、政府への助言機能を持つ国家科学審議会(NSB)は24年7月に政策提言を発表し、三つの主要課題を挙げている。

第1に、連邦政府による研究開発投資である。米国では民間部門が巨額の研究開発投資を行っているが、基礎研究の支援においては連邦政府の役割が依然として大きい。そのため、効果的な研究開発投資を実現するための官民連携が必要と指摘している。

第2に、中国との競争と協力である。中国の科学技術力は急速に成長しており、米国を凌駕しつつある分野もある。一方で、論文の共同執筆者の状況を調べてみると両国の深い協力関係が見られる。これを踏まえ、米国が優位性を確保すべき分野を特定しつつ、戦略的な国際協力を維持することが重要としている。

そして第3に、科学教育と人材育成の再強化である。米国では、科学技術分野の学校教育や技能訓練を提供する基盤が十分に整備されていない。さらに、大学や企業の研究開発活動は外国出身者に依存している面が大きいと分析されている。このため、特に国内人材に焦点を当てた新政策を打ち出すべきだとしている。

いずれの提言も、長期的かつ戦略的な視点が求められる取り組みである(表)。政権交代に際して、新旧の政策の差異に注目が集まるところであるが、このように次世代を見据えた議論が重ねられていることにも目を向けたい。

※本記事は 日刊工業新聞2024年11月22日号に掲載されたものです。

<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
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