第256回「高度専門人材に外国人留学生 独、就労促進策を拡充」
インドが首位
ドイツでは、2023年にインドからの留学生数が初めて中国からの留学生数を抜いて1位となった(図表)。全留学生数の約12%を占める4万2,600人余がインド人である。さらに大学や研究機関で研究者として働く人材も5,000人を超えており、教育研究の分野で非常に大きなプレゼンスを示している。
近年、インドからの留学生が急増したのは、モディ首相が14年から掲げた「メイク・イン・インディア」をはじめとする政策パッケージの一つとして、教育政策にも力を入れたことが理由の一つと言われている。結果として多くのインド人が海外で学ぶようになった。ドイツ側でも大学の国際化を図るため、英語で学べる大学院修士課程を増やしたことで、インド人の留学先として魅力が増した。
24年現在、1万コースを超える修士課程のうち約1割のコースは英語で講義が行われている。加えて公立大学の授業料が原則無料で、これは欧州域外の留学生に対しても適用される。インド人留学生に人気が高いのは、技術大国ドイツのイメージから機械や自動車といった工学系の学部で、ここにIT、数学、他の自然科学の分野が続く。
プログラム用意
ドイツの次なる課題は、高等教育を受けた優秀なインド人にそのまま残ってもらうことである。ドイツ連邦政府は、22年に専門人材戦略を発表し、将来予測される熟練労働者不足に備えるために、適切な人材育成や雇用環境の整備と合わせ、海外からも優秀な人材を確保する方針を示した。
多くの外国人留学生が学業を終えてもドイツに残り、高度専門人材として就労してもらうための措置が必要であるとしている。これを受けドイツ学術交流会は、留学生に在学中、そして卒業後も速やかにドイツの社会に溶け込んでもらうためのFITプログラム(24-28年)を設定し、25の大学を採択した。
就職支援や相談窓口などのキャリアサービスの拡充を図るとともに、大学と企業間のネットワーク構築も促進する。また、ドイツ企業に就職する場合にはやはりドイツ語が求められるため、連邦政府は人材不足への対応は企業側の努力が必要としながらも、関係機関や産業界と連携しながら語学習得の機会を提供したり、職業資格の認定簡素化を図るとしている。
日本にとっても人材大国であるインドは魅力的な国である。日本でキャリア構築できるような支援や環境を整備しつつ、帰国後にインドの国造りに資するような分野で学ぶ機会を提供するなど、ウィンウィンの関係構築を目指したい。
※本記事は 日刊工業新聞2024年9月13日号に掲載されたものです。
<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
2000年にミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。23年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(256)高度専門人材に外国人留学生 独、就労促進策を拡充(外部リンク)