第251回「科学技術外交 概念更新に議論進む」
3類型から15年
英国王立協会と米国科学振興協会(AAAS)が2010年に発表した報告書「New Frontiers in Science Diplomacy」は、科学と外交の動機を併せ持つ取り組みを概念化した。このような取り組みは以前からあったが、「外交における科学、科学のための外交、外交のための科学」という3類型の提唱により、欧米や日本を中心に拡大した。
24年1月、両協会はAAASが発行する学術誌「Science Diplomacy」で、3類型の提唱から15周年となる25年に向けて、科学外交の枠組みのあり方を時代に合わせ改めて議論する構想を発表した。これに前後して、概念の更新に向けた議論が各国で行われている(図)。
24年3月、外務省と科学技術振興機構(JST)は第3回科学技術外交シンポジウムを東京で開催した。日米欧タイからの講演者やわが国の関係者に加え、欧州連合(EU)、シンガポール、英国など11の国および地域の聴衆も交えて議論し、多くの示唆を得た。
新しい枠組みへ
シンポジウムで共有された意見に共通していた観点から、一部を紹介する。まずは、科学の推進、保護、協力を同時に推進することである。自由、開放性は理念として厳守すべき一方、安全保障上のリスクには適切に対処する必要があり、外交のソフトパワーだった科学が今後は時にハードパワーになりうる。
また、議論を国家戦略に反映、さらに戦略を実践へとつなげることである。関係府省と政策実施を担う機関が互いの経験を共有し、協働を図り、国際共同研究や頭脳循環などのプログラムを推進、具体的な活用事例を積み上げることも重要である。
科学技術の国際連携に関しては、価値観を共有する国および地域との国益や地域益に資する戦略的連携、必ずしも価値観を共有しない国を含む地球益に資する世界的連携の双方を推進する必要性を確認した。国の研究支援プログラムなどに関する資金配分を行う機関や、大学、研究機関などの役割は大きい。
今後、科学技術外交の新しい枠組みについて、国際的に議論が進むことが期待される。英国王立協会とAAASによって3類型の提唱が行われた10年と同様に、25年は科学技術外交の発展において、重要な節目の年になるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2024年8月2日号に掲載されたものです。
<執筆者>
高野 凌太郎 CRDSフェロー(科学技術外交グループ)
明治大学農学部卒業後、19年に科学技術振興機構に入職。国際関係の渉外・渉内調整業務、産学官連携事業担当を経て、24年より現職。主に科学技術外交、科学技術政策に関する海外動向調査を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
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