2024年6月28日

第246回「国際頭脳循環 信頼関係土台に」

国際頭脳循環とは、研究者や学生が国境を越えて自由に往来し協働しながら、新しい技術や知識などを生み出すことである。しかし、お金をぽんと出せば国際頭脳循環が加速されるわけではない。そのスピードやインパクトは、重層的につながる人と人との信頼関係に強く依存する。

コミュニティー
例えば、政策上重要な科学技術分野において、国際共同研究を通じて研究者同士を結び付け国際頭脳循環を加速することを目指している科学技術振興機構(JST)の先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)は、複数国の研究資金を提供する機関のリーダーや担当者の間に信頼関係がなければ始められなかった。

また、この事業に参加して国際共同研究を推進する研究者も、相手国研究者との信頼関係がなければ、応募のための提案が作れない。信頼関係で結ばれたコミュニティーは、国際頭脳循環の土台だ。しかしこの信頼関係は一朝一夕には生まれない。出会い、話し合い、協働し、寝食を共にしながら少しずつ積み上がっていくものである。

第6期科学技術イノベーション基本計画(2021-25年度)でも、戦略的な国際共同研究などを通じた国際頭脳循環の加速がうたわれており、国際的な人のつながりの強化は国の科学技術政策としても重要課題になっている。

育てる投資
JSTがスタンフォード大学と取り組む「JST-Stanford Initiative」は、日米研究連携促進週間の開催などを通じて、日米間の頭脳循環を担うコミュニティーを育むことを目指している。このような新しい連携の取り組みを担う人たちの信頼関係は、国際共同研究への投資だけでは作り出せない。

なぜなら、連携の土台となるコミュニティーは運と縁と恩によって維持されるエコシステムだからだ。これは特定の目標達成のために強いリーダーシップによって形成されるコミュニティーとは若干異なっている。こうしたエコシステムを生み育てる継続的な努力がとても重要である。

「関係性を作れば、あとはついてくる(Building relations, rest follows)」。この言葉は、米ジョンズホプキンス大学での国際頭脳循環促進のための打ち合わせで何度も耳にしたものだ。

分かりあえないことが前提の社会では、信頼関係の価値は大きい。私たちの社会の中に信頼関係で結ばれたコミュニティーが育ちつつあるか、国際頭脳循環への投資と並行して確認することを忘れてはならない。

スタンフォード大学で開催された日米研究連携促進週間(23年7月)

※本記事は 日刊工業新聞2024年6月28日号に掲載されたものです。

<執筆者>
嶋田 一義 JST人材部、ダイバーシティ推進室 調査役

早稲田大学大学院理工学研究科修了。同助手、財団法人のプログラムオフィサー(PO)を経て03年に入職。戦略的創造研究推進事業、研究開発戦略センター、科学コミュニケーションセンター、ワシントン事務所などでの業務に従事し24年4月より現職。工学博士。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(246)国際頭脳循環、信頼関係土台に(外部リンク)