第244回「マスクでウイルス防げるか 微粒子の捕集機構」
最近ではマスクを着用する機会が減っている。新型コロナウイルスによるパンデミックが一段落し、警戒心が薄れたように見える。このウイルスに代表される微粒子は、他にも花粉、粒子状物質(PM2.5)、黄砂などがある。
これらの微粒子を捕集する不織布マスクや自動車用排気フィルターではその機能を維持しつつ通気性を確保するため、一般的には対象とする粒子径(例えばPM2.5は直径2.5マイクロメートル〈マイクロは100万分の1〉以下の粒子群でありその平均粒子径は約0.1マイクロメートル)よりも大きな平均空孔径(5マイクロ-10マイクロメートル)が用意されている。
大きな空孔
この大きな空孔により微粒子が捕集される機構は、自動車用排気フィルターについては詳細に明らかにされている。まず気体の流れに沿って空孔に入ってきた微粒子は、最初の狭い領域でその一部が図の“遮り効果”、“衝突(慣性)効果”、“拡散(ブラウン運動)効果”によりフィルター構成基材に接触し、分子間力によって捕捉される。
その捕捉された粒子が次に飛来する粒子を同じ効果により捕捉することで徐々に空孔径が狭まり、ついにはふさがれる。微粒子により空孔がふさがれて初めて捕集効率100%となる。
マスクの空孔径とウイルスの粒子径は、上記フィルターと微粒子のそれらにほぼ等しいので捕集機構も同じとみてよい。さらに帯電処理による静電気力も働き、高い捕集効率の値となっている。実際には微粒子が正負いずれにも帯電されるためその働きが有利とは限らず、初期の捕集効率が50%に満たない場合もある。
堆積層を構築
このとき、あらかじめやや大きめの粒子が浮遊する空気中をマスク着用のまま歩き回れば、その粒子が捕集効率100%の堆積層を構築する。この堆積層により、やや通気性は劣るものの空気中に浮遊した直径0.1マイクロメートルの新型コロナウイルスの単一粒子も捕捉できる。
一方、医療用マスクのN95は、フィルターというよりふるいに分類される。その平均空孔径(0.1マイクロメートル以下)が対象とする粒子径よりも小さいため、その捕集効率は初期からほぼ100%となる。通気性が不織布マスクほど高くないために、しっかりした立体構造と強いゴムひもにより肌に密着させて使用する。
高い通気性と100%のウイルス捕集効率を両立するマスクの技術開発は難しいが、マスク内の粒子挙動を理解すると、粒子径1マイクロ-2マイクロメートルのホコリの堆積層によっても達成できる。
※本記事は 日刊工業新聞2024年6月14日号に掲載されたものです。
<執筆者>
花村 克悟 CRDS上席フェロー
東京工業大学大学院修士課程機械工学専攻修了。東京工業大学助手、岐阜大学助教授を経て、東京工業大学教授。東京工業大学名誉教授。2023年4月より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(244)マスクでウイルス防げるか 微粒子の捕集機構(外部リンク)