2024年5月24日

第241回「モバイル×最先端 新たな価値模索」

今年の最新動向
世界最大級の携帯電話およびネットワーク機器の展示会であるMWCは、スペインのバルセロナで毎年開催される。かつてはMobile World Congressとして知られていたが、現在は単にMWCと呼ばれている。このイベントでは、携帯電話の新製品やモバイルネットワークを利用した新サービスが発表され、業界の最新動向を知ることができる。

今年のMWC24は、2月26日から29日にかけて開催され、例年同様10万人以上が参加、通信事業者、通信機器ベンダー、携帯機器メーカー、通信装置メーカー、クラウド事業者、コンサルティングファームなど2700以上の企業や団体が出展した。

今回特に目立ったのはGSMA(移動体通信関連事業者の業界団体)が提案するネットワーク利用の標準「Open Gatewayイニシアチブ」の広がりと、生成人工知能(AI)への期待の高まりである。

もちろん、伝統的なモバイルネットワークに関連する技術や製品の展示も多々あるが、モバイルネットワークによる新たな価値を提供するという展示が増えている。例えば、個人の生活を快適にする自動運転やサービスロボット、配送など産業の効率化を進めるドローンなどである。

多様な技術集約
展示と並行して、370以上の講演が行われた。そのうち64件は主催者のGSMAが提供するもので、基調講演をはじめとした主要な会議で構成されている。そのトピックの内訳を表に示す。件数の最も多かった5G&Beyond(第5世代移動体通信とその後)と、それに次ぐConnecting Everythingは、まさにモバイルネットワークの話題であり、MWCならではといえる。

しかし、3番目にはAIが来ており、それに続いて製造業のデジタル変革(DX)、産業構造の変革など、モバイルネットワークとは直接関連の少ない話題が議論された。5GやオープンRAN(基地局の制御部と無線機の間をつなぐ共通仕様)などの先進技術が利用可能になり、これらを集約することによってモバイルネットワークの新たな応用と広がりが現実になってきていることが分かる。

これはモバイルネットワークの周辺にとどまらず、多様な技術を集約することによって、人々や産業、社会に新たな価値が提供されうることを示している。今後の全ての科学技術の研究開発において、それらが社会や人々の生活にどのような影響を与えるかということを、我々は強く意識しなければならない。

※本記事は 日刊工業新聞2024年5月24日号に掲載されたものです。

<執筆者>
高島 洋典 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

1979年京都大学大学院修了、同年電機メーカー入社。同社中央研究所支配人などを経て、2012年より現職。情報通信分野における技術・社会動向の俯瞰調査ならびに、戦略的研究プロポーザルの作成に従事。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(241)モバイル×最先端、新たな価値模索(外部リンク)