第240回「地球規模の課題解決 人材育成・獲得カギ」
国際協調と競争
気候変動やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)など地球規模の課題が噴出している。これらの課題解決には国際協調が不可欠であるが、一方でいずれの課題も国の安全保障と直接関わることから、互いに国益がぶつかるところでもある。また関連する市場の規模が非常に大きく、国際的競争も激しいことから、自国産業の支援など保護主義的になりやすい。
気候変動については、地球全体の観測、原因解明、対応策の技術開発と普及、規制や標準化など多様な活動が国際連合主導で行われている。世界気象機関(WMO)が国際協力の下、情報の収集を行い、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がその情報を評価し、科学的見解を提供している。
具体的なアクションは1995年来ほぼ毎年開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)で議論されるが、ここでは各国の利害がぶつかる。2023年12月に開催されたCOP28では、最終合意に至る過程で化石燃料の取り扱いについて意見が対立し、会期を1日延長の上、「化石燃料からの脱却(transition away)」で落ち着いた。
再生可能エネルギー容量の増加についても合意されたが、すでに再生可能エネルギーの市場は急速に拡大し、太陽光発電、風力発電、蓄電池、水素製造、電気自動車(EV)など関連産業の振興が各国で進められている。例えば、米国のインフレ抑制法(IRA)や欧州連合(EU)のグリーン・ディール産業計画など各国(地域)で規制と補助金による自国産業保護政策がとられている。
魅力ある場所に
地球的課題の解決を主導し、日本の技術と産業を世界的に展開するには、高い専門力と深い洞察力、広い視野、さらには国際的な交渉力を備えた多様な人材が必要である。人口、特に生産年齢人口の減少が著しい日本においてこれらの人材の確保は非常に難しい。
サッカーなどプロスポーツの世界では、人材は国際的に激しく流動しているが、地球的課題の解決に向けても各国間の人材獲得競争はすでに熾烈である。国際競争力のある人材を国内で育成することはもちろん、優秀な人材を国外から獲得していく必要がある。
世界的な人材市場で日本は競争力を失いつつあり、環境、待遇などの面を産学官が協力して早急に改善し、優秀な人材にとって魅力ある場所とすることが、世界をリードしていく上で不可欠である。
※本記事は 日刊工業新聞2024年5月17日号に掲載されたものです。
<執筆者>
魚崎 浩平 CRDS上席フェロー
豪フリンダース大学大学院博士課程修了。化学会社、オックスフォード大学研究員、北海道大学教授、物質・材料研究機構(NIMS)フェローなどを歴任。北大名誉教授、NIMS名誉フェロー。専門は物理化学。
<日刊工業新聞 電子版>
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