第237回「半導体の国際会議 日本の存在感 再び」
中韓台の躍進
世界的に半導体への注目が高まっている。最新のプロセッサー、高密度メモリー、次世代コンピューティング(人工知能〈AI〉アクセラレーターや量子コンピューターなど)、先端半導体プロセス、2次元半導体デバイスなどの研究開発動向は大きく動いている。その潮流は、電子回路・集積回路技術に関する世界トップレベルの会議における中国や韓国、台湾の存在感が高まっていることにも現れている。
例えば、米国電気電子学会(IEEE)の国際固体素子回路会議(ISSCC)におけるAIアクセラレーターチップ関係では、韓国や台湾の企業が3ナノ-5ナノメートル(ナノは10億分の1)世代の微細加工プロセスを用いて、メモリー内で演算するコンピュートインメモリー(CIM)技術を発表している。
また、中国の大学は28ナノメートルプロセスでも斬新な回路アイデアを盛り込んで高速動作や低消費電力性をアピールできるものを発表している。これらの国からは、挑戦的な研究、ポスドク・博士課程の若い研究者の発表、産学連携や国際共同研究などが活発に行われている。
一方で、日本はISSCCでの発表件数の割合が数年前より徐々に減少し全体の5%を下回っている。40ナノメートルプロセス以前の古いプロセスでの試作発表が多く、さらに若い研究者の発表やデモ展示も少ないため(ISSCC2024では2件)、最先端の研究開発の方向性を提案する場での国際プレゼンス低下が危惧される。
振興政策進む
しかし、国際会議の現状はこれまでの結果を反映したものであり、将来を悲観してはいられない。日本においても、2021年より半導体の産業政策として台湾積体電路製造(TSMC)の工場誘致や2ナノメートルプロセス対応の先端半導体製造会社ラピダス(東京都千代田区)設立、その先の世代の研究開発を行う最先端半導体技術センター(LSTC)の発足などが経済産業省のリードで進められている。
また、文部科学省や科学技術振興機構(JST)でも半導体関係の中長期的な研究開発プロジェクト・人材育成が進められている。今後はこれらに加え、産業界とアカデミアの協力によるAIや自動運転など将来の有望な応用先と研究開発課題の明確化、国内での先端プロセス利用や挑戦的な集積回路の試作が可能な開発環境の整備、国際的な共同研究に対するサポートの充実などが課題であろう。
これらの産業政策や研究開発施策によって先端的な半導体研究と若手人材育成を同時に進め、数年後には国際会議でも日本が再び目立つ存在になることを期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2024年4月12日号に掲載されたものです。
<執筆者>
馬場 寿夫 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
電気通信大学大学院電気通信学研究科応用電子工学専攻修士課程修了。電機メーカー、内閣府総合科学技術会議事務局(ナノテクノロジー・材料/ものづくり技術担当)を経て、12年より現職。工学博士
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