第235回「エコシステム 日本、世界規模で構築必要」
上位50社に集中
世界の企業の研究開発(R&D)費ランキングによると、上位50社の総R&D費は全体(上位2500社の総計)の40%を占め、近年継続して集中が進んでいる。産業別で見ると、米アップルなどの情報通信技術(ICT)関連製造業、米アルファベットなどの情報通信技術(ICT)関連サービス業、米ファイザーなどの製薬業がそれぞれ全体の20%を超え、それにつぐ自動車産業を加えると、全体の4分の3以上を占める。
米国では、過去30年間、研究を先導する役割を持つ大学と開発を先導する役割を持つ大企業との間で役割分担が進んできた。この間、ハイリスク・ハイリターンのICT関連サービス分野と製薬分野がスタートアップに適していることが証明されてきた。ICT企業や製薬企業はスタートアップの買収で大きくなり、R&D費を増加させている。そのため、国によるイノベーションの指標には企業のR&D費だけでなく、あわせてオープンイノベーションに該当する出資や買収の件数および額の観測も必要であろう。
日本からは自動車、電気機器といった分野の企業がランキングの上位に入るが、これらは成熟した分野であり必ずしもスタートアップ型のイノベーションと相性がよくない。ドイツでも同様の事象がある。ドイツは米中へのデジタル技術依存からの脱却や気候変動に対応する新しい産業の必要性の観点から、2022年にはじめて「スタートアップ戦略」を策定した。
英、戦略を公表
また、英国は上位に製薬企業2社が入るのみで、民間投資が国際的に後れをとっているということや創薬のスタートアップは量質ともに米国に水をあけられているという問題意識から、21年に「国家イノベーション戦略」を公表した。
研究開発型のスタートアップはコストのかかる製造設備などを持つことが難しいため、既存企業とのアライアンスが必要である。かたや既存企業側ではコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が早い段階からスタートアップへ出資するようになっている。起業家精神やそのエコシステムの存在だけでなく、大学などの研究分野の強みや産業の強み、スタートアップの適性分野といったことが国内で合致するのは米国のみではないだろうか。
エコシステムの1例として、独英の製薬企業は自国以外の創薬スタートアップを多く買収し、独英の創薬スタートアップは自国以外の企業に買収される形で帰結することが多い。日本国内にリスクのとれる企業がない場合、独英のようにエコシステムをグローバルに構築していくことが必要であろう。
※本記事は 日刊工業新聞2024年3月29日号に掲載されたものです。
<執筆者>
島津 博基 CRDSフェロー
大阪大学大学院理学研究科修了。研究開発戦略センターでは、人工知能(AI)、バイオやマテリアル分野への研究開発戦略立案を担当するほか、研究力やスタートアップシステムの国際比較などを執筆。弁理士試験合格。
<日刊工業新聞 電子版>
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