第234回「V2Xの事業化 インフラ整備に協働」
進む輸送技術
CESは、毎年1月に米国ラスベガスで開催される世界最大規模の最新テクノロジーの展示会である。注目イベントの一つとして、主催者の全米民生技術協会(CTA)によるテクノロジートレンドの発表がある(表)。2000年代前半までは家電が中心であったが、11年に電気自動車(EV)が紹介され、以降毎年のように自動運転技術など、自動車関連の技術が紹介されている。
21年には、Vehicle to Everything(V2X)という自動車(将来的には自動運転車)と信号機や街灯などのインフラが無線通信でつながる技術が紹介された。これにより交通の安全性や、街全体の効率化(エネルギー関連も含む)が期待できるとされる。また、街のインフラとの接続のみでなく、商業施設ともデータを連携すると、移動だけでなく移動先での購買もサービスとして含めたMaaS(乗り物のサービス化)へと概念は広がる。
これまでのV2Xの議論では、第5世代通信(5G)などの高速通信技術や高性能半導体の機能面に焦点が当たっていたが、今年は、V2Xの事業化について議論されたことが大きな変化である。
協調領域がカギ
カナダの自動車部品会社Magnaによるセッションでは、ミシガン州、アウディ、AT&Tなどからのパネリストが登壇した。そこでは、V2X進展のためには、協調領域と競争領域を分け、協調領域に取り組むことが重要とされた。
V2Xにおける協調領域とは、交通事故減少などの安全性確保や、渋滞緩和や省エネルギーによる二酸化炭素排出量削減などの効率性向上を指す。地域に即した安全で効率的な交通環境を構築するには、自動車やインフラからのデータを統合するプラットフォームが必要である。そのため、自動車会社や自治体等の間でのコラボレーションが肝要となる。その上で、プラットフォームに統合されたデータを活用し、さまざまなサービスを提供することが競争領域となる。例えば、人工知能(AI)がリアルタイムな交通状況だけでなく、個人の健康状態も勘案し、徒歩を含む最適な移動手段を提案することなどが考えられるだろう。
日本では、高齢化による運転免許証の返納や公共交通の運転手不足が深刻な課題となっている。また、都市部では慢性的な渋滞や環境への課題もある。
そのため、代替となる安全で効率的な移動手段への期待が高まっている。今年のCESで示されたV2Xの取り組みは参考となるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2024年3月15日号に掲載されたものです。
<執筆者>
青木 崇 CRDSフェロー
慶応義塾大学理工学部応用化学科卒。民間金融機関に入行後、米国コンサルティング会社を経て政府系金融機関で産業分野の調査を統括。23年より現職。経済安全保障関連の調査を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(234)V2Xの事業化 インフラ整備に協働(外部リンク)