第233回「韓国、戦略技術の育成推進」
技術大国
韓国は官民挙げて研究開発への投資を重視してきた国であり、半導体に代表される戦略的に重要な分野において高い国際競争力を持っている。近年、先端技術の確保に向けたグローバルな競争が加速する中で、その存在感はますます高まっている。
韓国の科学技術・イノベーション(STI)政策は、5年ごとに策定される科学技術基本計画が基盤となっている。現在は、2022年5月に発足した尹錫悦政権の下で、第5期基本計画が推進されている。同計画では、先端技術をめぐる競争、サプライチェーン(供給網)の危機、気候変動といった諸課題に対処するため、イノベーションの創出が重要との基本認識が示されている。
そして、世界的な技術強国を目指し、半導体、人工知能(AI)、量子など12の国家戦略技術を官民の総力を結集して育成していくとしている。
国家戦略技術の育成に向けた枠組みも着々と整備されている。23年2月に特別法が成立し、大学や公的研究機関に国家戦略技術特化研究所を設置することや、戦略的な国際協力を進めることなどが定められた。また、23年3月には、国家戦略技術に5年間で25兆ウォン(約2兆7500億円)以上を投じることが発表された。
国際協力
特別法に掲げられた推進策の一つである国際協力については、日韓シャトル外交の再開や米国での日米韓首脳会談などを背景に、日本や米国との国際共同研究の推進に向けた動きが活発化している。
例えば量子分野では、23年12月に米IBM社が日米韓の大学と連携して量子教育プログラムの提供を開始した。韓国のソウル大学と延世大学、日本の東京大学と慶応義塾大学、米国のシカゴ大学が同プログラムの対象となっており、これらの大学間の交流も検討されている。
また、23年12月、日米韓の関係省庁間で、重要技術に関する研究開発協力について合意がなされた。今後、AI、コンピューティング、材料などの先端技術分野や、大気や地震のモデリングなど環境や防災分野での共同研究を具体化していくという。
これからも、さまざまな日韓の協力案件が進展することが見込まれる。日本にとっては、両国の国益に寄与し、国際社会にも貢献するSTIの協力関係を構築できるよう、戦略性を持って検討を深めていくことが重要になるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2024年3月8日号に掲載されたものです。
<執筆者>
長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)
JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
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