第232回「データの真の価値 意思決定力高め引き出す」
データの資本化
情報通信技術や理論計算機科学の発展で、情報発信者の多様化、データの流通量や種類の拡大およびデータの高速入手が可能な環境が生まれた。さらに情報やデータを活用するデジタル技術の進展は、企業などの経済活動に大きな変化を生み出した。1国の経済活動を体系的に統計として記録する国民経済計算(SNA)は、2025年を目途に新たな国際基準(2025SNA〈仮称〉)へ改定予定だ。
新基準(国連統計委員会で議論)でも、経済のデジタル化の大きさをどう計るかは重要議題の一つである。デジタル産業の活動を包括的に捉えて統計を作成すること、データを固定資本として記録すること、暗号資産や人工知能(AI)を把握する方法などが課題である。
デジタル化により、企業の生産活動の結果としてデータが日々生み出される。また、データは繰り返し生産活動に利用される重要な生産要素にもなった。これらはSNA上の固定資本の概念と合致しており、データを資本として記録する理由でもある。日本でも内閣府がデータを資本化する試算について、研究を行っている。
日本の試算値を諸外国と比較すると、データなどに関するコスト積み上げ方式での産出額の対名目国内総生産(GDP)比率はおよそ1-3%程度となっている(表)。データ資本化によるGDPへの影響はまだあまり大きくないようだ。デジタル技術の変化は激しく、影響範囲も拡大している。
今後もデジタル経済の推計作業は続き、国単位での大きさや影響力が次第に明らかになろう。
データの真価
デジタル経済と言えば、ビッグテック企業の収入額や企業買収額が巨額なこともあり、データにおのずと価値があると思いがちだ。しかし、データを価値に変換するにはいくつか必要なことがある。例えば、データが示す現象の仮説と検証をどう組み立てるか、データをエビデンス(根拠)にまで高めるための分析はどう行うか、データの示す現象に自らはどう立ち向かうかなど、戦略的な意思決定とその実行が不可欠である。
情報やデータの集計、分析や蓄積、利用に関する科学と技術は今後も進化するだろう。実際、生成AIが急速に広く使われ始め、統計専門知識なしでも、情報やデータの分析は容易になってきた。デジタル化で、企業のイノベーション創出や個人の新たな価値創出の可能性が高まっているとも言える。データを真に価値あるものとするには、人間はまず、意思決定力を高めるべきである。
※本記事は 日刊工業新聞2024年3月1日号に掲載されたものです。
<執筆者>
佐藤 正一 CRDS上席フェロー
1991年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁。20年内閣府経済社会総合研究所総務部長、21年内閣府大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官を経て、23年8月より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
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