2024年2月16日

第230回「ロボ学会にみる未来 ロボ・人協働 新価値創出」

二大国際会議
産業や社会におけるロボット利活用の進展は顕著であり、特に近年、人工知能(AI)との統合や人間と協働可能なロボット開発において新たな動きが活発化している。

ロボット分野の進歩を牽引しているのは、権威ある二大国際会議、「ロボット工学とオートメーションに関する国際会議(ICRA)」と「インテリジェントロボットおよびシステムに関する国際会議(IROS)」である。

この分野での最新の研究とイノベーション事例を共有するための重要な場であり、世界中の専門家が集まり新しいアイデアを競う。コロナ禍により一時期オンライン開催に切り替わったものの、一昨年秋からは再び現地での参加が可能となり、数千人規模のロボット研究者や技術者および利用者が一堂に会した。

最近の会議テーマ(表)は、各会議がどのようにロボットと人が協働する社会を形作ろうとしているかを示している。例えば、ICRA2023では、人間のニーズや利便性を中心に据えた設計の重要性を強調している。ロボット工学の目指す未来像を考える際の出発点となる。

最新動向と課題
進化し続けるAIとの統合は、ロボットが単なる機械から知的なパートナーへと変貌を遂げることを期待させる。例えば、米オープンAIの「ChatGPT」のような技術を搭載することにより、近い将来、ロボットは人間との自然な対話を通して、自らの行動計画を作成し、その場の状況に応じた行動を適切かつ安全に実行することも可能になるであろう。

また、人間と協働するロボットの多様化と進化も顕著である。台に据え付けられた腕型のロボットから、人間や動物のような足を持つもの、全方向車輪で移動するものなど、さまざまな形状のロボットが開発されている。これらは、単に作業を補助するだけでなく、人間との共同作業を通じて新たな価値を創出する可能性を秘めている。

AIとロボット工学の統合は、産業やサービス分野における効率向上や新たなビジネスチャンスの創出に寄与するとともに、私たちの日々の生活をより安全で快適なものに変えてゆく。これに伴い、倫理的、法的、社会的な課題への配慮も急務である。

特に、人間とロボットの安全な協働、自律ロボットの判断における倫理的な課題、そして自動化による雇用構造の変化に対する適応が、今後の重要な焦点となる。これら課題への対応は、技術革新の利点を最大に活用し、社会全体の調和を図るためには不可欠である。

※本記事は 日刊工業新聞2024年2月16日号に掲載されたものです。

<執筆者>
茂木 強 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

京都大学理学部卒。総合電機メーカー入社。計算機言語処理系などの開発を経て、情報システム技術の研究開発や事業化に従事。米スタンフォード大学計算機科学科修士課程修了。2013年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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