2024年2月2日

第228回「創薬新興強化で業界活性化」

産業構造が変化
1990年代、製薬業界の構造が大きく変化した。収益性の高い生活習慣病治療薬の特許切れが迫り、次世代の治療薬として開発難易度の高いバイオ医薬品が注目された。研究開発費の増大に対処すべく欧米の製薬企業はM&A(合併・買収)を進め、メガファーマ(巨大製薬会社)が誕生した。

2000年以降、欧米ではバイオ医薬品のスタートアップが次々と誕生した。メガファーマは巨大な資金力を背景に、自社での開発と並行し、有望な医薬品シーズを持つスタートアップを次々と買収した。その結果、11年以降に承認された新規医薬品の約半数をスタートアップ由来品が占めるほどになった。

現在、メガファーマで開発段階にある新規医薬品シーズの大半はスタートアップ由来である。メガファーマがスタートアップを積極的に買収し、一部が成功することで巨額の利益を生む創薬エコシステムが当面は続くであろう。

視野を海外へ
政府の支援もあり、わが国のスタートアップの設立が増加している。しかし、そのシーズの受け皿となるべき国内企業はM&Aが進まないため企業規模が小さく、欧米のメガファーマと比べて資金力に乏しい。そのため、買収に及び腰であり、また買収後も社内で十分な資金をかけて開発できるとは限らない。

このような状況を踏まえると、わが国のスタートアップにおいては、欧米の製薬企業とのM&Aや提携を目指した経営戦略が必要であろう。欧米のスタートアップは相手を自国内の製薬企業に限定せず、当該領域を重点化している海外の製薬企業とのM&Aや提携の割合も高い。

まず取り組むべき課題は、産学官にわたる多様な組織が相互に協働や競争を続けるために必要なスタートアップ人材の育成にあろう。国内に閉じた人材育成をやめ、創薬エコシステムが確立した欧米で経験を積んだ人材を増やすこと、さらにアントレプレナーシップ教育を強化し、俯瞰的な判断ができる経営思考を持つ人材を育成することが重要だ。

創薬エコシステムのカギとなるスタートアップの強化は、低迷する国内の製薬産業の再編・活性化に向けた一石を投じるものともなるであろう。

※本記事は 日刊工業新聞2024年2月2日号に掲載されたものです。

<執筆者>
舩木 美歩 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東北大学大学院薬学研究科修士課程修了。医薬品メーカーにてバイオ医薬品の技術開発や薬効評価に取り組む。22年から現職。ライフサイエンスおよびメディカル関連のテーマを対象に調査や分析を実施。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(228)創薬新興強化で業界活性化(外部リンク)