第227回「独、正念場の気候保護対策」
脱炭素に黄信号
ドイツ政府は昨夏、グリーン技術の開発や住宅のエネルギー効率化支援といった気候変動に関する一連の対策として気候変動基金(KTF)の予算案を発表した。KTFは2024年から27年の約3年間で総額2118億ユーロに上る大規模な計画で、この中には台湾企業である台湾積体電路製造(TSMC)工場誘致や半導体企業の製造、技術開発への補助金としての41億ユーロが含まれる。
基金の財源の一部として、新型コロナウイルス感染症対策用財政資金のうち、未使用の国債600億ユーロ分を転用する予定であった。しかし23年11月に連邦憲法裁判所がこの措置を違憲としたことで、24年度の予算は大幅な見直しを迫られることとなった。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で特別に認められていた国債発行だが、来年度の計画への転用に待ったがかかった。
財政均衡を譲れない財務相と二酸化炭素(CO2)排出ゼロの45年達成を目指す経済相の意見も異なり、この財源を当てにしていた施策だけでなく、関連する研究開発投資の動向にも深刻な影響が考えられる。24年度予算決定は越年が決まっており、計画の見直しは避けられないだろう。
次世代のために
18年に始まった気候変動対策の迅速な実行を訴える「未来のための金曜日」運動は、ドイツでも瞬く間に若者の間で広がりを見せ、環境政党である緑の党が19年の欧州議会選挙と21年のドイツ連邦議会選挙で躍進した原動力とも言われた。
その後の社会情勢の変化による急激な燃料費高騰や物価上昇を受け、「気候変動対策疲れ」のような空気が国民の間で蔓延しているとされているものの、引き続き環境対策は政権の最優先課題である。
1990年には電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合は4%弱で水力発電が主だった。その後、23年4月時点では風力や太陽光、バイオマスなどの割合が増え、合計約50%となり着々と再生エネ導入が進行している。4月15日に原発を停止したドイツにとって再エネが重要となることは間違いない。
債務も気候変動問題も次世代への負の遺産としない、という強い意志の表れだ。日本も、世論の高まりと個々人の意識変革に頼るのではなく、制度改革や技術革新といった複合的なイニシアチブをスピード感を持って取り組んでいきたい。
※本記事は 日刊工業新聞2024年1月26日号に掲載されたものです。
<執筆者>
澤田 朋子 CRDSフェロー(海外動向ユニット)
2000年にミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。13年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(227)独、正念場の気候保護対策(外部リンク)